結局どうやって魔の島まで行ったのか……その道中、何も起こさなかったのかを含めて、(おぼ)えていない。
 肝心な事は、俺がようやっと魔の島に辿(たど)り着いた事。
 浜辺から(にら)む、おどろおどろしい森。周囲は不気味なほどの静けさを(たた)えており、海から寄せて返す波の音だけがやけに耳についた。
 森の中にちらりと動く影が見えた気がして、その影を狩るべく、神経をより()()ませる。
 ここは魔の島。魔物の島。動くモノは全て敵。皆殺し、皆殺しだ。
 なあ、俺も後からちゃんと()くから……。許してくれよな、シルフィアナ。俺の白銀だった竜。
 感傷(かんしょう)(ひた)り続けたいのを(こら)え、再び森の中へと意識を向ける。
 やはりここは、風の刃で道を切り開きながら進むべきだろうか、それとも。
 いっその事、炎で全てを焼き尽くすのも、悪くない、か?
 全部焼き尽くす。甘美な(ひび)きだ。
 俺の最大火力をぶつけて、俺の魔力()れ果てるまで、俺の命()れ果てるまで。
 ざわり、と。(くら)い喜びに反応するように、俺の周囲で気温が上がる。それすらも、今は心地好い。けれど、今までならば殺気に反応して向かって来た(はず)の魔物どもは、何故か一斉に身を(ひるがえ)した。
 逃げるのか? ……俺の前から去った、シルフィアナみたいに?
 カッと、目の前が(あか)く染まった。
貴様等(きさまら)ぁ……っ!」
 ただ激情のままに叫ぶ俺の周囲の気温が、爆発的に上昇する。
「逃げるなあぁっ!!」
 遠くから森を焼き尽くすなり、他の魔法を使うといった選択肢は、綺麗(きれい)さっぱり頭から消え失せ。俺は、森の中に突撃(とつげき)した。
邪魔(じゃま)なんだよっ!」
 森の木々が頭に血の上った俺の行く手を(はば)み、俺はより苛々(いらいら)する。
 完全な、悪循環(あくじゅんかん)。なのに、気付けず。
 何処かで小動物の鳴き声のような音が聞こえた。
 何かが語りかけられた気がした、が、それすらもが不快で。
 目の前に、白い小動物が飛び出してきた時、俺の理性はほぼ完全に失われていた。
()ずは貴様(きさま)からだ……っ!」
 ああ、先ずは魔物なのかそうじゃないのか、その区別だけはきっちりしろって、散々教えられてきた事だったのに。
 俺に身体を鷲掴(わしづか)みにされた小動物は、星の(またた)く夜空のような瞳を俺に向けた。
 一気に、身体が冷えた気がした。
 いや、実際に、上がっていた気温が一気に元に戻った。
 それだけに止まらず、放出しかけていた魔力、更には体内の魔力までもが急速に失われていく感覚がして。
 唐突な変化についていけなかった体が、言うことを聞いてくれず、(かし)いでいく。
 意識が、閉ざされていく。
 ぼやけて暗くなっていく視界に映る、今更になって近付いてくる魔物どもの影。
 先程までの激情が(うそ)のように、心は(おだ)やかに()いでいた。
 ……終わったな。
 結局、道連れどころかシルフィアナにも()えないまま。
 意識が完全に落ちる直前、追い求めた白銀の(かがや)きを見た気がした。

2−5【不思議な小動物】