ゆさゆさと、何かに体を()さぶられている。誰か、とは思わない。グルグルと、猫が(のど)を鳴らしているかのような音が、頭上から降ってきている。
(ママー、まだ起きてくれない)
 ピィピィ、鳥の鳴き声に(かぶ)せて、幼い少年のような思いが、伝わってくる。
(怖がりな()には紳士的(しんしてき)挨拶(あいさつ)しないと、こうなるって教えたでしょう)
 グルグルと(こた)えているのは、どうやら先ほどのグリフォンの母親のようだ。
 要するに、オレは()グリフォンにビビり散らかして気絶してしまったのだろう。なんてこった。あの大きさ、あの眼光の鋭さで、まだ子供だったのか。
 気分的にはもう一回気絶してしまいたかったけれども、()グリフォンが容赦(ようしゃ)なくオレを押さえつけ、()さぶる。
(ねえ、起きてよう)
 わかったから、とは声にならなかった。ミュ、と(かす)かに鳴き声が()れたくらいだ。
 幸いにも、グリフォンたちには聞こえたらしい。体から、ふっと重みが消えた。
 覚悟(かくご)を決めて目を開けると、果たしてそこには予想通りにグリフォンの親子の姿。だけでなく、ドラゴンとか、大きな鹿みたいな動物とか、ペガサスとか、狼とか、とにかくいっぱい勢揃(せいぞろ)いしていて、オレはこの世界に来てから何度目かのフリーズ状態に(おちい)った。
 いいかげんにしてほしい。一体オレを何回キャパオーバーさせれば気が済むのか。ついでに、毎回固まってしまうオレ自身も、いいかげんにしろ。いくら元人間でも、野生生物としては、確実にアウトの部類だろう。
 そしてその元人間という自分の認識が、(さら)にグサリと心を刺した。

1-09【思っていた以上に、自分の境遇が辛い】