ゆさゆさと、体を()さぶられていた。さっきも、そんなことがあった気がする。
 でも、もう、目を覚ましたくはなかった。
 鼻先に食事を差し出されている気がするけれど、それも食べたくない。そりゃ、生きる為には他の生物を(かて)にする必要があるのはわかっているさ。()グリフォンが(たお)れて母親に(かば)われている姿がチラついて、悲しくて、食欲が()かないだけで。
 (かたく)なに拒絶していたら、ふわりと温かな何かに包まれたというか、抱き込まれた。むずがる()をあやすような動きに、ふるふるとオレの鼻先のヒゲが(ふる)えて(こた)えた。いくら理性的であろうとしても、本当に、今の体は感情に正直だ。
 そろりと、最初は狼が。次にペガサスが。名前も知らない幻獣たちが。ドラゴン、そしてオレが傷付けてしまった()グリフォンの、母親まで。代わる代わるにオレの機嫌(きげん)を取ろうと、抱き込まれているオレに触れていった。その度に、食べたくないのに、嫌だと思っているのに、何かが飢餓感(きがかん)(いや)していく。悲しくて涙を流すと、勿体無(もったいな)いとばかりに(ぬぐ)われる。その仕草の優しさに(ほだ)されて、いつしか余計な力が抜けていった。そんな中、不意に聞こえた、()グリフォンの思念。
(ねえ、食べて。ぼくはもう大丈夫だから、みんなの魔力、受け取ってあげて)
 ピクリと、耳が動いた。謎の生体エネルギー、どうやら魔力というらしい。
 ヒクヒクと、ヒゲが(せわ)しなく(ふる)える。オレが意地を張ったからか、周り中で放出されたのか、オレの周りで減っていた(はず)の玉虫色なモヤが元に戻っている。それを、魔力と言うのであれば。
 目は覚ましたくない。目を閉じたまま、空中に(ただよ)っているソレに、そっと感覚を()ばした。

1-11【やはり間違いなく、ファンタジー世界】