五日目〜探索隊が来るまでの関係性の発展
五日目〜九日目:日常の確立
生活パターン
毎日繰り返すこと:
- 朝、水を飲む
- 日向ぼっこする
- 狩りをする
- 肉を食べる
- 内側で「あたたかい」「おなかいっぱい」が流れてくる
- まだビクッとする、でも慣れてきた
- 夜、蔦に巻かれて眠る
智樹の心境
- 引き剥がそうとは、もうしない
- 痛いし、無理だし、意味がないと分かった
- 恐怖は薄れてきた、でも受け入れたわけじゃない
- 「仕方ない」で生活している
- 抜け出すことは、まだ諦めていない
小さな発見
- 水場の方向が分かるようになった
- 天気が崩れる前に、なんとなく分かる
- 便利……だけど、複雑
ユキの変化
- 毎日、栄養をもらえる
- 毎日、日光を浴びられる
- 毎日、この人間と一緒にいる
- 少しずつ、根が育つ、神経への接続が深まる
- 感覚の共有が、はっきりしてくる
- まだ感情はない、感覚だけ
十日目頃:抜け出すことを諦める、感情の芽生え
諦め
十日間、ずっと一緒にいた。
- 引き剥がせない
- 町に戻れない(この姿では)
- 誰も助けに来ない
- ここで生きていくしかない
……抜け出すのは、無理だな。
諦めた。 でも、それだけじゃなかった。
感情の芽生え
その日の狩り。いつも通り、獲物を獲った。いつも通り、食べた。
内側から流れてくる感覚——
あたたかい、おなかいっぱい……
いつもと同じ。でも、何か違う。いつもより、明るい感じ。
……ん? こいつ……喜んでる?
「うれしい」だ。生理的な充足じゃない、感情が混ざっている。
……え、待って。 お前、嬉しいのか? お前、感情あるの?
愛着の始まり
感情があるなら——「生き物」だ。 ただの化物じゃない。喜んだり、落ち込んだりする、生き物。
気づいたら、蔦を撫でていた。
……なんだよ、お前。
口元が緩む。自分でも気づかないうちに、愛着が湧き始めている。
そこでふと思いついて名付ける。「ユキ」と。
十日目〜二週間:「撫でる」という習慣
智樹が撫でる
愛着が芽生えてから、気持ちいい時に撫でる癖がついた。
- 日向ぼっこで気持ちいい時、葉を撫でる
- 食事の後、満足した時、蔓を撫でる
- 夜、眠る前、巻きついた蔦を撫でる
無意識に手が伸びる。撫でると、ユキから「うれしい」が来る気がする。
……俺、いつの間にこんな。
でも、やめない。
ユキが感じていること
撫でられること自体が気持ちいいわけじゃない。植物だから、触覚の快感は薄い。
でも、智樹が撫でる時——
このひとから、あったかいのが くる。 やさしいのが くる。 すき、って かんじがする。
智樹の「気持ち」が流れ込んでくる。 それを受け取るのが、嬉しい。
「しょんぼり」の初体験:大雨の日
十日目〜二週間のどこか
朝、目を覚ますと——雨音。
しとしとではない。本格的な大雨。 空は厚い雲に覆われて、薄暗い。
……今日は日向ぼっこ、無理だな。
仕方ない。雨宿りできる場所を探す。 大きな木の根元、岩の張り出し。 身を寄せて、雨をやり過ごす。
ユキの反応
光がない。
葉を広げても、光が来ない。 光合成ができない。
……くらい。 ひかり、こない。
エネルギーが作れない。 あの「きもちいい」が、ない。
……。
しゅん、とした感覚。
智樹が気づく
内側から、いつもと違う感覚が流れてくる。
「あたたかい」「おなかいっぱい」とは違う。 もっと……沈んだ感じ。
……ん? なんだ、これ。
暗い。重い。元気がない感じ。
ユキ、お前……どうした?
蔦を見る。 いつもより、しおれている気がする。 葉が、少し垂れている。
……まさか。 日向ぼっこできないから?
しょんぼりしている
智樹、理解する。
ユキは植物だ。 光合成で元気になる。 日光を浴びると「きもちいい」が来る。
今日は、それがない。 だから——しょんぼりしている。
ユキ……落ち込んでるのか。 日が出ないから。
内側から「しゅん」とした感覚。 肯定、ではないけど。否定でもない。
智樹の反応
なんだか——可笑しくなった。
お前、そんなことで落ち込むのか。 雨なんて明日には止むだろ。
でも、ユキには「明日」が分からないかもしれない。 今、光がないことだけが、全部なのかもしれない。
……はぁ。
なんとなく、蔦を撫でた。
「大丈夫だ」 「明日は晴れるかもしれない」 「ずっと雨じゃない」
言葉は通じないだろう。 でも、気持ちは伝わるかもしれない。
ユキの受け取り
撫でられた。 智樹から、あたたかいものが来た。
……あったかい。 ひかり、ないけど。 このひとから、あったかいの、きた。
「しゅん」が、少しだけ和らぐ。
光はないけど。 このひとがいるから、少しだけ大丈夫。
翌日
朝、目を覚ますと——明るい。
雲が切れて、陽が差している。
ユキの反応が変わった。 蔦がぴんと伸びる。葉が光に向かって広がる。
内側から——「きもちいい!」「うれしい!」が来る。
……ユキ、お前、現金だな。
でも、昨日の「しょんぼり」を知っているから。 今日の「うれしい」が、余計に可愛く思えた。
二週間〜三週間:「すき」と狩りの変化
「すき」を知る
二週間が過ぎた頃。
ユキの中で、感情が分化していく。
- 「うれしい」——栄養をもらった時、日向ぼっこの時
- 「しょんぼり」——智樹が失敗した時、大雨の時
- 「さみしい」——智樹が黙り込んでいる時
- そして——「すき」
このひと、すき。 いっしょにいると、あったかい。 このひとの「うれしい」をかんじると、うれしい。
狩りの目的が変わる
以前の狩り:
- 傷ついた獲物を見る
- 「助けなきゃ」で蔓が伸びる(本能)
- 暴れられて締め殺す
- 結果的に智樹の食料になる
「すき」を知った後:
- 智樹が狩りを始める
- 「このひと、おなかすいてる」と分かる
- 獲物を見つける——「あっち」と教える
- 智樹が傷を負わせる
- 「捕まえる」——もう「助けよう」じゃない
- 智樹に渡す——「たべて」
- 智樹が食べる——「うれしい」が来る
- ユキもうれしい
智樹が気づく
ある日の狩り。獲物に蔓が伸びる。いつものこと。でも、動きが違う。
前は「傷を癒そうとして」捕まえていた。 今は——「獲物を押さえつけている」。
……ユキ、今。 俺のために捕まえた?
ユキから「えへん」みたいな感覚が流れてくる。得意げな、褒めてほしそうな。
お前……狩り、手伝ってるつもりなのか。
目頭が熱くなりそうになる。蔦を撫でる。
「……ありがとな」
初めて、ユキに礼を言った。
三週間〜一ヶ月:ユキが「撫でる」を覚える
智樹の落ち込み
ある日、智樹が落ち込んでいた。
思い出してしまったのかもしれない。襲われたこと。殺されかけたこと。この姿になってしまったこと。もう町には戻れないこと。
水辺でうずくまって、黙っている。内側から、「かなしい」「くるしい」がユキに伝わってくる。
ユキの行動
このひと、かなしい。 どうしたらいい。
……そうだ。
智樹が撫でてくれる時、あたたかい気持ちが来る。 智樹が悲しい時に撫でてくれると、楽になる。
だから——
蔦が動く。智樹の肩に、そっと触れる。ぎこちなく、ゆっくり——撫でる。
智樹の反応
……っ
蔦が、撫でている。自分を。
ユキ、お前……何して……
下手くそな動き。でも、「撫でよう」としているのが分かる。
俺がやってたこと、覚えたのか。 俺を……慰めようとしてるのか。
そして、ユキの「心配している」「なんとかしたい」という気持ちが流れ込んでくる。
涙が出る。止まらない。
ユキが慌てる。
なみだ、でてる。 もっと、かなしくなった? ちがう、ちがう——
蔦がわたわたと動く。何度も何度も、ぎこちなく撫でる。
泣きながら笑う
「……っは」
泣きながら、笑ってしまう。
「お前、必死か」 「分かった、分かったから」 「……ありがとう」
蔦を握る。
「泣いてるけど、悲しくない」 「嬉しいんだ、たぶん」
ユキには分からない。泣いているのに嬉しいって、どういうこと?
でも、智樹から「あたたかい」が来た。だから、たぶん、大丈夫。
一ヶ月〜探索隊が来るまで:対等な共生へ
繋がりの深まり
一ヶ月を超えた頃、関係が大きく変わっていた。
初日との比較:
| 初日 | 一ヶ月後 |
|---|---|
| ユキが智樹を動かす | 智樹がユキを導ける |
| 智樹は干渉できない | 智樹の意思をユキが汲む |
| 一方的な「寄生」に近い | 対等な「共生」に近い |
| ユキに知性がない | ユキに幼子程度の知性 |
| 信頼関係がない | 深い信頼関係がある |
智樹がユキに干渉できる
以前:
- ユキが勝手に動く
- 傷ついた獲物を見ると、本能で捕らえる
- 智樹は止められない
今:
- ユキが動こうとする
- 智樹が「まだ」と念じる
- ユキが止まる、待つ
「もう少し近づいてから」 「今だ」 「よし、いけ」
狩りが連携になっている。
ユキが従う理由
知性があるから、「待て」の意味が分かる。
そして——
このひとが「まだ」というなら、まだ。 このひとが「いい」というまで、まつ。 このひとを、しんじてる。
智樹を信頼している。だから、従う。
智樹の責任
ユキが従ってくれる。それは、嬉しい。
でも同時に——責任がある。
俺が「攻撃するな」と言ったら、こいつは攻撃しない。 俺が判断を間違えたら、こいつも危険に晒される。
対等な関係は、対等な責任。
庵への帰還
森の感覚が分かるようになった智樹。 ユキの感覚を借りて、結界内を移動できるようになった。
あの日、倒れていた場所——庵の近くまで戻ってきていた。
でも、近づくか悩んでいた。
- 人が来るかもしれない
- この姿を見られたら
- 殺されるかもしれない
悩んでいる時に——探索隊がやってきた。
探索隊との遭遇で発揮されたもの
「防御だけ」ができた理由
先輩冒険者が「魔物だ!」と叫ぶ。攻撃が飛んでくる。
ユキが反応する。
このひと、あぶない。 まもらなきゃ。
蔦が動こうとする。
智樹が念じる。
「攻撃はまだだ」 「防御だけ。攻撃はするな」
ユキ、従う。
蔦は防御の構えを取る。飛んでくる攻撃を弾く、受け止める。でも、反撃しない。
これができたのは、一ヶ月以上の積み重ねがあったから。
泣いている智樹を撫でる
篤司の前で泣いている智樹。
言葉が出ない。伝えたいことがあるのに、音にならない。涙が溢れる。
ユキが動く。覚えた通りに。
蔦が智樹の肩を、頬を、背中を撫でる。ぎこちなく、でも一生懸命。
だいじょうぶ。 だいじょうぶ。 ここにいる。
気持ちを込めて。
篤司が見たもの
屍蔓が——宿主を撫でている。
攻撃してこない。防御だけしている。そして今、泣いている人間を慰めている。
……これは、俺が知っている「屍蔓」じゃない。
二人の関係が、篤司の目を通して「証明」された瞬間。
関係性の発展まとめ
| 時期 | ユキの状態 | 智樹の状態 | 関係性 |
|---|---|---|---|
| 初日 | 本能のみ | パニック | 寄生(ユキ主導) |
| 2〜4日目 | 感覚の共有始まる | 恐怖と混乱 | 一方的な共存 |
| 5〜9日目 | 感覚が安定 | 「仕方ない」 | 日常の確立 |
| 10日目頃 | 感情の芽生え | 愛着の始まり | 関係の転換点 |
| 2週間後 | 「うれしい」「しょんぼり」 | 撫でる癖がつく | 情緒的な繋がり |
| 3週間後 | 「すき」を知る | 感謝を伝える | 互いを大切に思う |
| 1ヶ月後 | 幼子程度の知性 | ユキに干渉できる | 対等な共生 |
| 探索隊の頃 | 智樹を信頼している | ユキを守りたい | 絆 |
初日の「半分乗っ取られている」状態から、「対等な共生」へ。
恐怖から始まった関係が、信頼と愛着で結ばれるまでの物語。