第三部:遺跡と真実
探索隊に合流
篤司に連れられて
智樹、篤司に連れられて探索隊の元へ戻る。
先輩冒険者たちは既に捕縛されている。 残っているのは学者、篤司のパーティメンバー、サポート要員。
智樹の姿を見て、空気が変わる。
蔦を生やした人間。 屍蔓憑き。 本当にいたのか。
遠巻きにされる。好奇と警戒の視線。
篤司の仲介
「こいつは敵じゃない」 「さっきの案内役に襲われた被害者だ」 「詳しい話は後でする。今は遺跡の調査を続けよう」
パーティメンバーたちは篤司を信頼している。 篤司が言うなら、と一応は矛を収める。
学者の反応
学者は好奇心旺盛だが、専門は遺跡・建築・古代文化。 植物や生態系への興味は薄い。
智樹を見て——
「ほう、屍蔓との共生者か。珍しいな」 「まあいい、それより遺跡だ。案内してくれるんだろう?」
興味はあるが、深掘りしない。 今は遺跡の方が大事。
智樹の心境
学者の顔を見て気づく。
……あの人、配信で見たことある。 登録者数十万の人気配信者。 この人も配信してるのか……?
嫌な予感がする。 でも今は従うしかない。
ユキが智樹の緊張を感じ取って、そっと寄り添う。
だいじょうぶ。 ユキ、ここにいる。
庵へ向かう道中
いつもと違う
探索隊が森の奥へ進む。 屍蔓の生息域。本来なら警戒が必要な場所。
篤司が気づく。
「……おかしいな」 「いつもならもう襲われてる距離だ」
周囲を見る。屍蔓はいる。蠢いている。 でも、近づいてこない。
護衛の一人が呟く。
「避けてる……?」
同族認定
篤司、智樹とユキを見る。
「……同族認定、か」
智樹がいるから、襲ってこない。 ユキという「仲間」がいる人間は、敵ではないと判断されている。
護衛たちの智樹を見る目が少し変わる。 警戒から、奇妙な感心へ。
「便利だな、それ」 「……便利、ですかね」
智樹、複雑な顔。
学者の反応
学者は周囲の屍蔓より、道の先に意識が向いている。
「それで、遺跡はまだか?」 「あとどのくらいだ?」
植物の生態には興味がない。 遺跡、遺跡、遺跡。
篤司が苦笑する。
「もう少しです。……先生、周り見てます?」 「見てるとも。古い石畳の跡がある。これは期待できる」
見てるものが違う。
庵の入口
到着
木々の間を抜けると、開けた場所に出る。 古びた庵。苔むした屋根、崩れかけた壁。 でも、結界のおかげか、完全には朽ちていない。
学者、目を輝かせる。
「これは……! 素晴らしい保存状態だ!」 「建築様式は……平安後期か? いや、もう少し後か……」
早足で近づいていく。
入口の文字
庵の入口、柱に何かが刻まれている。
学者が立ち止まる。
「文字……か?」 「いや、これは難解だ。崩しすぎている」 「癖字にもほどがある。誰が書いたんだ、これは」
解読を試みるが、首をひねる。
智樹に読める
智樹、その文字を見る。
読めない——はずなのに。
ユキから、何かが流れ込んでくる。 おぼろげな記憶。見たことがある、この文字。 意味を知っている、この言葉。
「……癒蔓の、家」
声に出していた。
反応
学者、振り返る。
「読めるのか!?」 「どういう意味だ、癒蔓とは」
智樹、自分でも驚いている。
「俺にも分からない……でも、読めた」 「ユキが……覚えてたのかもしれない」
篤司、黙って聞いている。 何かを考えている顔。
学者は興奮している。
「癒蔓……屍蔓の別名か? いや、原名か?」 「これは大発見だぞ!」
庵の内部
異空間拡張
入口をくぐると、外観からは想像できない広さ。 異空間拡張の術式。結界の中に、さらに空間が折りたたまれている。
学者、感嘆の声を上げる。
「見事だ……これほどの術式を維持し続けるとは」 「陰陽師の技術、恐るべし」
生活の跡
部屋がいくつもある。 書物が並んだ棚、道具が置かれた作業台、枯れた薬草の束。 誰かがここで暮らしていた痕跡。
学者は書物に飛びつく。
「資料だ! 陰陽師の直筆か!?」 「これは……癒蔓の生態記録……飼育方法……」
夢中で読み始める。 周囲のことなど目に入らない。
ユキの反応
智樹、胸の奥がざわざわする。 自分の感情じゃない。ユキだ。
……しってる。 ここ、しってる。 なつかしい。 あったかい。 でも、かなしい。
ユキが震えている。 蔦がざわざわと揺れる。
ユキ、どうした?
言葉では返ってこない。 でも、「こっち」という感覚が来る。
導かれている。
篤司の判断
智樹が奥へ向かおうとする。
篤司、気づく。
「どこに行く」 「……分からない。でも、ユキが」
篤司、少し考えて——
「ついていく」 「先生、ここの調査を続けてください。俺たちは奥を見てきます」
学者、資料から目を離さずに手を振る。
「ああ、好きにしろ」
興味がないのか、信頼しているのか。 たぶん両方。
隠し部屋
導かれて
智樹、ユキの感覚に従って歩く。 廊下の奥、行き止まりに見える壁。
でも、ユキは「ここ」と言っている。
「……ここに、何かある」
壁に手を触れる。 ユキの蔦が壁を這う。
かちり、と音がして——壁の一部がずれる。 隠し扉。
小さな部屋
扉の向こうは、小さな部屋だった。 他の部屋と違って、何もない。 壁も床も簡素。
中央に、台座。 その上に、一冊の書簡。
ユキの震え
ユキが、もっと強く震えている。
しってる。 これ、しってる。 よんで。 よんでほしい。 しりたい。 こわい。 でも、しりたい。
智樹に伝わってくる感情がぐちゃぐちゃ。 懐かしさ、悲しさ、恐怖、期待。
ユキ……
篤司、二人の様子を見ている。 口は挟まない。ただ、見守る。
配信はオフにしてある。 今日は智樹の気持ちが不安定かもしれないと思ったから。 録画は義務だから回っているが、これは協会確認用。外には出ない。
書簡と追憶
手を伸ばす
智樹、書簡に手を伸ばす。
触れた瞬間——
光
書簡から光が溢れる。 部屋全体を包む、柔らかい光。
そして、映像が展開される。
壁に、床に、天井に。 記憶が、再生される。
三人が見るもの
智樹、ユキ、篤司。 三人とも、同じものを見る。
追憶・一 創造
若い陰陽師の姿。 愛する者——病弱な妻、幼い子供。
「守りたい」 「この手で、守れるものを作りたい」
研究の日々。 植物に術を込める。癒しの力を宿らせる。
成功。 蔦が光り、傷を癒す。
「癒蔓……お前は、癒す蔓だ」
追憶・二 利用
噂を聞きつけた武士たち。
「その植物、兵に使えるのではないか」 「傷を癒せるなら、兵士が死なない」 「戦に勝てる」
断れなかった。 断ったら、家族が危ない。
癒蔓たちが連れていかれる。
追憶・三 暴走
戦場。 傷ついた兵士に癒蔓を植え付ける。
癒蔓は「助けたい」と思う。 でも、兵士は怯える。拒絶する。暴れる。
「化物だ!」 「離れろ!」
恐怖が、癒蔓に伝わる。 「助けなきゃ」が、「離さない」に変わる。 締め付ける。暴れるから、もっと強く。
結果——
「屍蔓だ……」 「取り憑いた者を殺す、化物の蔓……」
名前が変わった。 癒蔓から、屍蔓へ。
追憶・四 断罪
陰陽師の元に、命令が届く。
「あの化物を処分しろ」 「お前が作ったのだから、お前が始末をつけろ」
庵に戻る。 残っていた癒蔓たちが出迎える。
……おかえり。 さみしかった。 あいたかった。
陰陽師、刃を持つ手が震える。
……できない。 この子たちは、悪くない。 怖がられたから、暴走しただけだ。 「助けたい」と思っただけなんだ。
追憶・五 結界
刃を捨てる。 代わりに、術式を組む。
「お前たちを、ここで守る」 「誰にも見つからないように」 「誰にも傷つけられないように」
結界を張る。 自分の命を削って、永続する結界を。
「いつか——」 「怖がらずに、お前たちを受け入れてくれる者が現れることを」 「願っている」
光が収束していく。 陰陽師の姿が薄れていく。
最後に、癒蔓たちを撫でる手。
「……ごめんな」 「守ってやれなくて」 「でも、信じている」 「いつか、きっと——」
追憶・終
光が消える。 部屋が、元の静けさに戻る。
三人の反応
智樹
立ち尽くしている。 涙が流れている。
ユキは——最初から、俺を殺そうとしてなかった。 傷ついた俺を見て、助けようとしただけだった。 狩りの時、獲物を締め殺したのも—— 「助けよう」として、失敗しただけだった。
屍蔓じゃない。 癒蔓だ。 最初から、ずっと——
ユキ
智樹を通して、記憶を受け取った。
今まで、おぼろげだったもの。 自分が何者か、なぜ怖がられるのか。 全部、分かった。
わたしたち、たすけたかっただけ。 こわがられて、きらわれて。 ずっと、ずっと、まってた。
このひとは——こわがらなくなった。 うけいれてくれた。 いっしょにいてくれた。
まってた。 ずっと、まってたひと。
ユキも泣いている。 植物に涙はない。でも、悲しみが溢れている。 智樹に伝わっている。
二人で泣く
智樹がしゃがみこむ。 ユキが智樹を包む。
二人で泣く。
陰陽師が願った「いつか」が、今ここにある。 怖がらずに受け入れてくれる者。 それが、智樹だった。
篤司
黙って見ている。
追憶を見たから、全部分かった。
屍蔓の真実。 智樹とユキの関係が「例外」じゃなく「本来の形」だったこと。 何百年も誤解され続けてきた存在のこと。
何も言わない。 言葉をかけるタイミングじゃない。
ただ、見守る。
録画は回っている。 これは協会に報告すべき「真実」だ。 でも、外には出さない。智樹が望まない限り。
部屋を出て
落ち着いてから
どのくらい時間が経ったか。 智樹が顔を上げる。目が赤い。
「……すみません、取り乱して」
篤司、首を振る。
「取り乱すような話だった」 「……あの陰陽師の記憶、本物だろうな」
真実の共有
「屍蔓は——癒蔓だった」 「何百年も、誤解されてきた」 「……お前とユキが証明したようなもんだ」
智樹、ユキを見る。 ユキが智樹を撫でている。いつものように。
「……ユキ」 「お前、ずっと待ってたんだな」
ユキから、「うん」が来る。 言葉じゃない。でも、肯定。
学者への報告
部屋を出て、学者の元へ戻る。
学者はまだ資料に夢中だった。
「おお、戻ったか。見ろ、これは素晴らしい発見だ」 「癒蔓の生態記録、繁殖方法、共生の条件——」
篤司が口を挟む。
「先生、奥に隠し部屋がありました」 「陰陽師の記憶が残されていた」
学者、手を止める。
「記憶……? 追憶の術か?」 「それは見なければ」
学者を隠し部屋に案内する。 もう一度、追憶が再生される。
学者、見終わって——
「……これは」 「歴史が変わるぞ」
第三部の終わりに
智樹の心境
真実を知った。 ユキが何者か、自分たちの関係が何なのか、分かった。
悲しい歴史だった。 でも、自分とユキが出会えたことは——奇跡みたいなものだと思う。
ユキ。 俺、お前と出会えてよかった。
ユキから、「うれしい」が来る。 「すき」が来る。 「いっしょにいる」が来る。
篤司の考え
この真実を、どう扱うか。
配信には出さない。智樹のプライバシーがある。 でも、協会には報告する。屍蔓——癒蔓の真実は、知られるべきだ。
学者の配信で、庵の発見は公開される。 「癒蔓の家」という名前も、資料の一部も。 でも、隠し部屋の追憶は——智樹が決めることだ。
学者の興奮
学者は学術的発見に興奮している。
「論文を書かねば」 「屍蔓の起源、癒蔓との関係、陰陽師の術式——」 「いや、まず協会に報告か」
智樹やユキの「感情」には、あまり興味がない。 でも、悪い人じゃない。ただ、学者なだけ。
帰路へ
探索隊、庵を後にする。
智樹は、また戻ってくるだろう。 ここは、ユキの故郷みたいなものだから。
でも今は——町に戻らなければならない。 証言のために。 人間社会に、戻るために。