足音が二つ、そして多分台車の音が、部屋の前で止まった。片方は常葉先生。もう片方は、初耳かな?
 ノックの音は、いつも通り。扉を開けて「神代さん、入りますね」と断りを入れるのも。でも。
「常葉先生、もしかしていつもそのバカ丁寧さ」
「……徳永先生、患者さんの前ですよ」
 一緒に誰か、知らない先生が来ているらしい。常葉先生よりも明るいトーンで話す、トクナガ先生?
 直ぐに足音が隣まで来て、見知らぬ顔が覗き込んできた。
「神代さんっすね? 理学療法士、兼、義肢装具士の徳永っす。今日からリハビリと、外殻っぽいやつの作成担当になります、よろしく」
 名札を見せてくる。徳永守、言われた通りの肩書き。茶色に染まった髪は短くて、ちょっぴり吊り目気味。常葉先生よりも背が高くて、がっしりしてそうだ。
 そこまでいつものように観察してから、瞬き一つ。そして、気になったことを聞くことにした。
『がいかく ?』
「常葉先生から何も聞いてないっすか?」
「えっと、今からの説明なんですけど……」
 そして聞かされたのは、何とも不思議な——植物で外側から身体を動かそうという、新しい治験の話。
「外から刺激を与えることで神経の回復が見込めるかもしれませんし、自分で身体を動かせたら、色々とできることが増えるでしょう?」
 もっと神代さんも何かを得られるように、とは聞いていた。聞いていたけれど……こんなレベルのことを考えていたなんて。
「で、今日は材料の検討と、型取りっすね」
 徳永先生が、視界から去る。ガサゴソという音は、もしかして台車から何か持ってこようとしているのだろうか?
「材料はコレが候補かなと思います。んー、どう言えば分かりやすいっすかね。水耕栽培に使われるやつに、木材乗せて芯にして、接木した蔦とかで固定して、動かす。で、せっかくなので、ありがたーく屋久島地杉でも使う予定っす」
 屋久島、の、杉。えっと、それって……
『伐採  禁止   の ?』
 それは大問題ではなかろうか。それとも、もう倒れたものでも入手した?
「よく知ってるっすねー。大丈夫っす、屋久島地杉っす、しかも若いの。植林されたやつ。耐久性高いし、縁起も良さそうっしょ?」
 常葉先生が特に止めてないから、良いの、か? 混乱している間にも、徳永先生はアレコレと持ってきては説明してくれる。くれるけど、ちょっと頭に入ってこない。分からない単語も多いし、常葉先生よりもずっと早口だ。ナ……何とやらが、外殻にだけ云々カンヌン、植物の細胞制御を云々カンヌン、形質に合わせて云々カンヌン。
「徳永先生、神代さんがついてきていません」
 常葉先生の声も呆れているように聞こえた。徳永先生は、それでも懲りなかった。
「でも常葉先生なら、後からでも説明繰り返せるっしょ」
 ……確かに、常葉先生なら、後から聞いても教えてくれそうだ。納得してしまった。
「と、言うわけでっすね」
 気付けば、目の前にはいっぱい鉢植えが並べられている。
「動かすのに、どれが一番素直に反応するか、実験っすよ」
 徳永先生の目が据わっている、のは、多分俺の気のせいではない。
 そこから数日は本当に頭が焼き切れるかと思うほど、どんな植物がどう脳波に反応するか、試されまくった。常葉先生も付き添ってくれたし、俺があまりに疲れてくると徳永先生を止めてくれたけど、それでもやっぱりかなり疲れた。
 それだけ一緒にいれば、気付くこともある。
 常葉先生、少なくとも徳永先生には気を許してる。ちょっぴり、呆れた雰囲気の声とか出てる。
 ……ふうん。

06・正直な先生(神代望視点)