「ぼちぼちお前らも退院か」
 相変わらず僕たちのリハビリに付き合ってくれながら、守が感慨深げだ。
(生きて退院できる日が来るなんて)
 あ、望もそう思ってる? 多分、僕も。
(多分じゃない)
 ……あっ、はい。
「お前らまた何か通信しただろ」
「生きて退院できる日が来るなんて……って」
「……それもそうか。退院したらどうするつもりだ?」
 退院した後、か。
「僕は本格的に仕事に復帰。しばらくは当直免除だけど、外来とか」
「俺は誠の家で在宅勤務できる仕事を探す予定」
 あっ、望ったら、そこまで言う? 守が聞き逃すわけないのに。
「……同棲する気か」
 ほら、ちゃんと気付かれた。
 でもこれは、僕のせいで。だから、僕が言わなくちゃ。
 口を開きかけていた望が、そのまま黙った。僕の気持ちを尊重してくれた、嬉しい。
 望の態度から僕が説明するつもりだと察したらしい守も、僕が話すのを待つ体勢だ。
 うう、でも、恥ずかしい、な。
「……望がいないと、寂しい」
 静かなのは、嫌いではなかった。なかったのに、何となく好きでもなかった。その気持ちの正体が、今なら分かる。あまりに静かなのは寂しくて、苦手なんだって。
 守、特に茶化すでもなく、「そうか」って。なのに望が、真相まで暴露する。
「誠、夜になったら寂しい寂しいってメソメソするから、ぎゅってしながら寝たい」
 まさかの、三十路が夜に寂しくなって、泣く。うぅ。
 案の定、守が、呆れた。
「……お前ら……。いや、良いけど。誠お前、そんなことになってるのかよ」
 いや、呆れただけじゃない、な。これは心配された、と、思う。
(そうかも)
 だよね。でも、嫌じゃない、んだけどな。
 寂しいのも、心配されるのも——
(伝えなよ)
「あのね、守」
「なんだ、改まって」
「守のおかげで、僕、今、幸せ。ありがとう」
 言葉は、意外とスルリと喉から出た。そうしたら、守が、大きく瞬きした。
「お前……夜にメソメソするくせに、幸せって」
「でも、望が慰めてくれるし」
「散々心配かけやがって」
「うん」
「オレがどんなに『死ぬな』って言っても返事もくれなかったくせに」
「……うん」
「……末長く幸せに泣いてろ」
「そうする」
 早速また、泣きそうだよ。


【徳永守の日記】

 ……まさか、誠があんなこと言う日が来るなんて。オレまで泣きそうになったじゃないか、不覚。
 オレのおかげで幸せとか、不意打ちにも程があるだろ。絶対あれ、望が裏で背中を押した……割には望も少し驚いた顔だったから、中身を知らずに促したパターンか。どっちにしろ、今度会った時には礼を言っておかないとな。
 結局、外殻を想定外に使いこなしたのはあの二人だけだったが、経過観察の必要性から、定期的に大学病院に通う日々は続きそうだ。
 まあ、決着がついて、良かった。これで、オレも心置きなく、嫁と子どものことに集中できるってものだ。

21・先生との、(神代望視点)