深夜の高速道路を、一台の大型トレーラーが滑るように走っている。
 外見はどこにでもある、年季の入った運送車両だ。だがその内部、二重の電磁シールドに守られた空間では、青白いモニターの光が二人の「ガラクタ」の横顔を照らしていた。

 キャビンのスピーカーからは、ノイズ混じりのラジオ放送が流れている。深夜枠の都市伝説特集だ。

『……さて、今夜最後のトピックは、最近ネットの深淵で囁かれている「死角の番人」の噂です。監視カメラが不自然に増え続ける街には、決まって巨大な白いトレーラーが現れると言われています。そしてそのトレーラーが通り過ぎた後には、消したい秘密を持つ悪党たちが、正体不明の「ゴースト」によって破滅へ追い込まれるのだとか……』

 その馬鹿馬鹿しくも真に迫った話を聴きながら、暁斗(あきと)はソファに深く背を預け、堪えきれずに吹き出した。
「ハハッ、聴いたかよ空也(くうや)! 俺たちが『死角の番人』だってさ。なかなか格好いい名前じゃないか」

 ワークステーションで次の目的地の座標を計算していた空也が、(レンズ)を僅かに動かして暁斗を見た。

「……非論理的な尾ヒレがついているな。俺たちは単に、自分たちの生存圏を確保するために組織の狩場を潰し、路銀を稼ぐために情報を売っているに過ぎない。正義の味方と混同されるのは、計算外のノイズだ」
「いいんだよ、面白ければ。……なあ、あのクソったれなオーナーがくたばってから、世界は少しはマシになったと思うか?」
 暁斗の問いに、空也は数秒の演算を挟んでから答えた。
「いいや。組織は依然として巨大であり、新たな権力者がその椅子に座っている。監視カメラの裏側で『材料』を求める構造も、それを黙認して回り続けるこの世界も、本質的には何も変わっていない。……世界は相変わらず、くそったれなままだ」
「……全くだ。最高に救いようがないぜ」
 暁斗は笑いながら、自分の鋼の指先を見つめた。

 名前を奪われ、身体を機械に変えられ、部品として消費されるはずだった自分たち。
 けれど今、自分たちはこの世界の「死角」に自分たちの城を築き、あいつらが喉から手が出るほど欲しがったその「スペック」を使って、檻の外側を走り続けている。

 世界が変わらないというのなら、自分たちが変わればいい。
 被害者のままでいることをやめ、この世界のバグとして、影から牙を剥き続ける共犯者として。

「空也。……次の街のデータ、抽出終わったか?」
「ああ。大規模な『死角』を三箇所、そして組織の資金洗浄用フロント企業のリストを特定した。……暁斗、君の『修行』の成果を見せる時だ」
「任せとけ。……『善良な市民』として、たっぷりお節介を焼いてやるよ」
 暁斗がキーボードに手をかけ、不敵に笑う。
 空也はその背中を見つめ、システムの深層で静かに満たされていた。
(……この男を地獄へ引きずり下ろした罪は、決して消えることはない。だが、このくそったれな世界の片隅で、彼がこうして笑っていられるのなら——)

 かつて、接続(アクセス)の奥底で交わした言葉が、今はもう回路を伝うまでもなく、二人の間に確かな体温を持って存在していた。

「……隣にいてほしい、暁斗」
「ああ。……いていいからな、空也」

 彼らが「ガラクタ」として再起動したあの日から、彼らの時間は、永遠に続いていく。
 病も老いも、死さえも遠ざけた身体で、彼らはこの世界の闇をどこまでも走り抜ける。
 白いトレーラーは、サーチライトで夜の帳を切り裂き、次の「獲物」を求めて加速していった。
 このくそったれな世界の片隅で、誰にも見つからない、彼らだけの物語を刻み続けながら。