あの子と……ルークスと初めて出会った日のことは、今でも鮮やかに覚えている。
あの年は森の雪解けが遅くて、小川の水はまだ冷たく、山菜も芽吹き始めたばかりだった。
人間の幼な子が、川辺で力なく座り込んでいた。泥にまみれ、靴も片方しかなくて、目は怯えきっていた。
声をかけても返事はなかったけれど、差し出した手は震えながらも取ってくれた。あれが、すべての始まりだった。
名を尋ねれば、「ルークス」と、小さく答えた声がかすれていた。
年齢よりもずっと軽い身体を抱き上げたとき、その痩せ具合に胸が痛んだ。
あの子は、何も持たずにこの森の外れまで流れ着いたのだと後で知った。
それからは、日々が少しずつ彩られていった。
火の起こし方や薬草の見分け方、動物との距離の取り方──そんな森で生きる術を教えながら、一緒に笑ったり、時には叱ったり。
やんちゃで、負けず嫌いで、わたしの真似をしては失敗して、膨れっ面をするのも可愛かった。本当はとても優しくて、こっそりと小鳥の手当てをしていたのも知っている。
成長するにつれて口数は減ったけれど、それも年頃だと思っていた。反抗期の一つだと。
けれど、あの日——
「少し森に行って、帰ってくる」とだけ言い残し、あの子は出かけた。
その背中を見送ったのが、最後になった。
数週間経っても戻らず、月が一巡りしても、更に巡っても。
不安を打ち消すように、自分に言い聞かせた。「きっと大丈夫。また『ただいま』と笑って帰ってくる」と。
でも——あれから、もう季節さえも、変わってしまった。
暖炉の火が揺れるたび、あの子が寒さに震えていないかと考えてしまう。あの子は負けず嫌いだから、「そんなことない」って怒りそうだけれど。
ルークス。あなたの笑顔を、もう一度この腕で抱きしめられる日は来るのだろうか。
わたしは、ハイエルフだ。長命と謳われるエルフの中でも、特に寿命が長い。
だから、置いていかれるのは、ある意味「いつものこと」だった。
置いていかれることは、身を引き裂かれそうに悲しい。でも、一人きりでいるのも、寂しい。景色が色褪せてしまうほどに。
そうして、誰かを求めて、また置いていかれてしまうのだ。
でも、こんなに早く別れることは、想定外で。だって、今までの子たちは、ずっとわたしと一緒にいたがった。寿命の尽きる、その瞬間まで。
帰ってくると言うのなら、待っていてあげたかったけれど。
次に季節が巡っても帰ってこないのならば、その時は——