外の森はすっかり雪化粧を施され、枝の先まで眠りに包まれている。あなたを連れ帰ってから、季節は完全に一巡りした。
 冬の静けさの中、暖炉の前であなたは椅子に腰掛けている。
 膝に置かれた両手の動きはまだぎこちなく、時には震えていることもあるけれど、もうわたしの支えなしでも動かせるようになった。

 思えば、最初の頃は座らせるだけでも大仕事だった。
 腕も足も、声も、全部一から取り戻すために、何度も何度も試行錯誤して、失敗もして——それでも、諦めなかった。
 芽吹いた小さな葉が季節を越えて色を変えていくたび、あなたは確かに、ここに根付いていった。

 あれからしっかり調べてみたら、あなたの今の本体である食肉種の蔦は、やっぱりかなりの長命種だった。
 何せ、ハイエルフと呼ばれるわたしが小さかった頃に、既に言い伝えになるほどの年月を生きていた同種の蔦が、今でもまだまだ元気に活動していたりするのだから。
 あれだけの深手と毒を喰らい、瀕死の状態で土人形の器に植え替えられて、枯れることなく定着してくれるかが心配だった。けれども、今の魔力の流れを見る限りは、もう大丈夫だと思う。

 ——そう、長命種となった今、あなたはわたしより先に寿命で逝くことはない。
 一緒にいれば、あの日、森で倒れた姿を見たときの胸の痛みも、二度と味わわずに済む。
 やっと、それが言える日が来た。

「新しい、約束をしましょう」
 わたしの言葉に、あなたは顔を上げる。
 その瞳は、昔と同じ色で、でもどこか森の奥を映しているようだった。

 わたしがあなたの寿命について説明するのを、あなたは神妙な顔で聞いていた。

「だからもう、置いていかないで。どんな季節が来ても、隣にいて」
 返事は、少し泣きそうな笑みと、小さく「……うん」という声だった。
 暖炉の火が、二人の影を壁に揺らしている。

 外はまだ冬の気配が濃いけれど、次の春がすぐそこまで来ていることを、わたしは知っている。
 そして、あなたも気付いているのだと思う。だって、首元の細蔓に見える、小さな膨らみ。それは、新芽の準備でしょう?

第十一章 君の隣で花咲かす