胸の奥に芽吹いた熱は、全身を巡っていた。
魔法が葉を焦がし、衝撃が根を震わせるたび、俺は必死に蔦を繰り出し、受け流し続ける。
そのうち、気付いた。相手の一手一手に、妙な既視感がある。使う魔法の選択も、間合いの詰め方も、どこかで——
光の閃きが視界を裂いた瞬間、その癖に気付いた。
駆け引きの間合い、攻撃前にわずかに半歩引く行動。
忘れようにも忘れられない。かつて追いつきたくて、背丈しか追い越せなくて——いつか置いて逝ってしまうと恐れていた、俺の愛する養い親。ディラオーネ。
その事実が、蔦の動きを止めた。
遅れた一瞬が致命的だった。
鋭い魔力の刃が根を抉り、樹液が熱を帯びて溢れ出す。
痛みが全身を走り、おぼろげな視界が白く弾けた。
逃げろ——そう念じても、根元にしがみつく小動物たちには届かない、動かない。
怯えた鼓動が根を通して響く。
……そうだ、俺には守るべきものがある。
深呼吸の代わりに、地中から冷たい水を吸い上げ、熱と痛みを押し込めた。
育ててくれた養い親の癖は、まだ覚えている。
攻撃の前に必ず半歩引く——そのタイミングさえ分かれば。
今の俺は、かつてよりも詳細に、魔力の流れが読めるから。ディラオーネの魔法を弾くだけなら、何とかなるだろう。
一方で、お得意の土人形まで持ち出されてしまえば、この傷ではかなり厳しいかもしれない。
傷は塞がらない。力も夏の盛りのようには出せない。相手に反撃もしたくない。
いっそ笑うしかないくらいに、危機的な状況だ。
ディラオーネは本気で俺を討伐に来ている。
そりゃそうだよな。今の俺は、どこからどう見ても、食肉植物なんだから。
俺だって、今の俺を終わらせてくれるなら、と思わなくもない。けれど、守るべき命がある以上……何としても、耐えるしかないんだ。
——たとえ、この次の一撃が、俺を地に沈めるものであっても。連中が、避難してくれるまでは……
悲壮な覚悟を決めたその刹那、森の空気がざわりと揺れた。