オレが摂取(せっしゅ)していたのは、短く表すと、視界を玉虫色に染めているナニカ。もう少し詳しく言うならば……、世界に放出された、余剰(よじょう)な生体エネルギー。しかも、確実に、地球上にはないやつ。
 オレが吸い込んだ玉虫色の空気は、色のない透明な空気として吐き出されていく。よくよく味わえば、どんな生物がそれを吐き出したかを、なんとなく思い浮かべることができた。そこの草だとか。木だとか。空を飛ぶ鳥だとか。ドラゴンだとか。
 ……ドラゴンの存在に、一瞬めっちゃテンションが上がったのは内緒(ないしょ)だ。すぐに、自分は食べられる側だろうって気付いて(へこ)んだのも。
 悲しいことにこの体はだいぶ小さいみたいで、背の高い草の向こうには見上げんばかりの木々が見えた。ひるがえって見下ろせば、真っ白な毛皮に(おお)われた、獣の前脚。不幸中の幸いは、リスか何かをベースにしているのか、意外と器用に指まで動くこと。けれど走ろうと思ったら、自然と四つ足になっていた。意識すると逆に混乱するので、何も考えずに動くのがこの体と上手く付き合うコツ、なのだろう。
 しかし、これだと水辺に出て自分の姿を確認するのは、少々大変かもしれない。うっかり水に落ちてしまった場合、果たしてオレは泳げるのか。
 もっと安全に鏡みたいなものが確認できないものかと考えていたら、目の前の、だいぶ色の薄れたモヤが、グルグルと(うず)を巻いた。(おどろ)いて見つめていたら、周りのモヤまで引き込んで、高速で(うず)を巻いて、そしてピカッと強い光を放つ。(まぶ)しくて瞬きをした間に、宙に浮く鏡が現れていて、思わず()()ってしまった。
 ……魔法じゃん? 魔法だよな? 物理法則、どこか行ってたもんな?
 どうやら、この世界はとてもファンタジーな世界らしい。

1-06【思っていた以上に、オレの体は貧弱だ】