どれだけ呆然(ぼうぜん)としていただろう。風にヒゲがそよいで、水の(にお)いに思考が戻ってきた。
 そういえば、あれだけ飢餓感(きがかん)(すさ)まじかったのに、口渇感(こうかつかん)はなかったんだよな。しかも、今は何を食べたわけでもないのに、なんとなく空腹だ、程度まで治まっている。
 (のど)(かわ)いていないけれど、近くに水辺があるなら、自分の姿を映して見るくらいできないだろうか。
 改めて周りを見ると、目に痛いのは空の色ではなくて、どうやら空気の色のようだった。背の高い緑色の草に囲まれている、のは(かろ)うじて分かったが、その先は、やっぱり玉虫色のモヤに(おお)われて不透明だ。
 これは前途多難(ぜんとたなん)だなぁと思って目を()らしていると、オレの周りだけ、どんどんモヤの色が薄れているような気がした。うーん、モヤが薄れても、不透明だと前が見えにくいことに変わりはないんだけど……。
(それもそうだね)
 ふと、誰かの声が聞こえた気がした。振り返ろうとしたその瞬間、一気に体から力が抜けて、とてつもなく腹が減った。
 なすすべもなく、ベチャッと地べたに()いつくばる。ぼやける視界、漂ってくる半透明になった玉虫色のモヤ。
 ああ、おなかが、ぺこぺこだ。
 あまりの情けなさに、涙まで出てきそうだ。頭が回らなくなって、人間としての意識が薄れて……
 やっとオレは、自分が何を()ったのかを感じ取った。

1-05【魔法が使えるだなんて、思わなかった】