……腹が減った。腹と背中の皮がくっつくんじゃないかってくらい猛烈に、腹が減っている。
言葉を出す気力もなくて、ヒュウと、か細い吐息だけが、口から漏れた。次いで取り込んだナニカは、果たして空気だったのか。飢えた体は嬉々としてソレを糧に変換していく。
ケプッと一息ついて、やっとまだ目を開けていないことに気付いた。ああそうだ、変な夢を見て、夢の中で気絶するという不思議体験をしたのだった。
しかし、この空腹具合、どれくらい気を失っていたのだろう。まさか、現実でも倒れていて、無断欠勤からの救急搬送……ありえないと言い切れないのが怖い。
恐る恐る目を開ける。幸いにも、そこは病室ではなかった。けれど、残念ながら自室でもなかった。
「……ミュウ？」
いやいやちょっと待ってくれ。
「ミュミュウ？」
ここはどこだ。シャボン玉の膜を通したかのような、玉虫色の空が目に痛い。
「ミュ……ミュー……」
そしてさっきから、オレの声はどうした。ミュウミュウと、か細くて、甲高くて、まるで小動物の鳴き声のような……。
感じた不安の大きさに、耳の先と尻尾が垂れ下がり、鼻先のヒゲだけが忙しなく震えた。ごく自然に感じ取った自分のその感覚に、一拍遅れて混乱が追いついた。
人間の耳は、頭上に大きく広がっていない。人間に尻尾なんてない。感覚器官としてのヒゲも、ある訳がないじゃないか。