歴史の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。休憩時間を挟めば、次は魔法実技。……僕が一番、苦手な授業だ。
 運動着に着替える間も、気分がどんどん下降していく。魔法は好きだったのに、この授業が始まってから、素直に好きだと言えなくなってしまった。それがとても、悲しい。
魔量(まりょう)、どれだけ増えてるかな」
「次こそ上級魔法を成功させるぞ」
 クラスメイトたちの会話が、胸に刺さる。最大魔力量(略して魔量(まりょう))の大きさや、魔力を多く使う魔法が持て(はや)され、実技の評価に直結するのは、結局どこの学校も変わらないと聞いている。カウンセラーさんの、気の毒そうな顔が忘れられない。
(魔法に対する評価法の一つでしかないのだけれど、ルーエ君には(つら)いだろうね)
 僕の魔量(まりょう)は、とても小さい。だから、中級魔法ですら成功させられない。
 初級魔法や生活魔法、複合魔法なんかのアレンジは得意なんだけど、残念ながら成績には反映されない。魔法実技で点数が取れないものだから、座学がトップ近くても、平均点は低くなる。
 魔法実技トップのリオニス君ほどじゃなくても良いから、せめて中級魔法を成功させられるほどの魔量(まりょう)が欲しかったな。まあ、無い物ねだりをしても、仕方ないんだけど。
 ……そういえばリオニス君、ちょっと雰囲気(ふんいき)変わったよね。春休み前から依頼で休学していて、死んだかもって(うわさ)もあったけれど。何ていうか、()き物が落ちた、みたいな。ピリピリしていたのが、角が取れた、感じ。
 彼も僕も孤立(こりつ)気味だけれど、高嶺(たかね)の花として遠巻きにされているリオニス君と、実技底辺層の僕とでは、やっぱり意味合いが違う。
 ズキッと、胸が痛んだ。
 最近、胸が痛むことが増えた。無理に魔力回路を(きた)えようとしたのが悪かったのだと、見当はついている。魔力を使い切れば、回復する時に魔力回路が(きた)えられるなんて都市伝説を、うっかり信じてしまった僕が悪い。本当にそれで魔量(まりょう)が増えるなら、授業で教えない訳がないのに。
 そっと胸元を確認すると、魔力回路のある辺りが紫色に()れている。ああ痛いなと、僕はひっそり嘆息(たんそく)した。
 周りを見れば、もうクラスメイトのほとんどが着替えを済ませ、教室から去っている。
 いくら僕が魔法実技の授業が苦手だからって、遅刻しても良い訳がない。慌てて僕も、教室を飛び出した。
 魔法実技の授業は、魔量(まりょう)の測定から始まる。それが、とてつもなく憂鬱(ゆううつ)だった。きっとリオニス君が数百万とか叩き出して、僕はまた一桁か二桁だ。
 魔力回路を()らしてしまってから、僕の魔量(まりょう)は減少傾向にある。クラスメイトや先生の、(あわ)れみの視線が痛い。
 魔力回路が()れていて、痛いんです……とは、言えなかった。だって、見た目が魔紋(まもん)みたいで、魔人だって揶揄(からか)われそうだったから。
 魔人だなんて、冗談でも言われたくない。僕の妹は、薬草の採取に出かけた先で魔物に(おそ)われて大怪我(おおけが)をした。そんな奴等(やつら)の一味だなんて、言われてたまるか。

3−2【魔竜の襲来】