『癒蔓(いやしかずら)の森』の奥深く、陽光が(おだ)やかに差し込む水辺で、篤司(あつし)は意識を取り戻した。
 最初に見えたのは、()れる斑入(ふい)りの葉と、心配そうに自分を(のぞ)()む十八歳の少年の顔だった。
「……篤司(あつし)さん、気が付きましたか」
 智樹(ともき)の声に、篤司(あつし)は上体を起こそうとして——その異様な「軽さ」に息を呑んだ。視界に入った自分の手には(しわ)一つなく、二十年以上冒険者として戦ってきた証拠(しょうこ)のタコも消え、瑞々(みずみず)しい若者の(はだ)に戻っている。
「……っ、……ぁ……」
 声を出そうとした瞬間、喉を焼くような、(すさ)まじい「(かわ)き」が(おそ)った。それは砂漠で数日彷徨(さまよ)った後のような、生命の根源(こんげん)が水を求めて悲鳴を上げているような感覚だった。
「……み、ず……」
「分かってます。こっちへ」
 智樹(ともき)に支えられ、篤司(あつし)はよろよろと川べりへ()()った。そして、我慢(がまん)できずに頭から水面に突っ込んだ。
 がぶ、がぶ、と喉を鳴らして水を(むさぼ)る。数リットルは飲み込んだはずだが、腹が張る感覚は一切ない。飲んだそばから、胸に根を張る新しい癒蔓(いやしかずら)——『キズナ』が、すべてを吸い上げ、全身へと(めぐ)らせていくのが分かった。
 数分後、顔を上げた篤司(あつし)は、智樹(ともき)が差し出したタオルを呆然(ぼうぜん)と受け取った。
「……智樹(ともき)。俺は、一度も息を()がなかった」
「はい。その子が——キズナが、酸素を送っていますから。……慣れるまでは、少し気持ち悪いですよね」
 かつて自分が智樹(ともき)に「飯食ったか」と問いかけていたとき、智樹(ともき)がこれほどの「異常」を(ひと)りで引き受けていたのだと、篤司(あつし)は痛感した。

癒蔓の子・特別編:キズナ・5