森に(とど)まって三日が経った。
 キズナは篤司(あつし)の身体と密接(みっせつ)(つな)がり、智樹(ともき)とユキのサポートのおかげで、一度も暴走することなく共生プロセスを終えつつあった。
 だが、篤司(あつし)には()(がた)い「違和感(いわかん)」があった。
「……智樹(ともき)。俺は、ここに来てから一度も『出して』いない」
「はい」
「食事も、あれだけの水も()った。なのに、尿意も便意も、欠片(かけら)もない……」
 篤司(あつし)の顔は蒼白(そうはく)だった。一人の人間として、生物として、摂取(せっしゅ)したものが排泄(はいせつ)されないという事実は、死への恐怖よりも生々しく「自分が人間でなくなった」ことを突きつけてくる。
「……智樹(ともき)。お前は、これを(ひと)りで()えたのか?」
「……絶叫しましたよ。三日目に」
 智樹(ともき)は、かつて自分が日向(ひなた)ぼっこをしていた岩の上に座り、(おだ)やかに答えた。
「大丈夫です、篤司(あつし)さん。悪いものは何も残っていません。全部、キズナが養分(ようぶん)にして、お返しに篤司(あつし)さんの身体を完璧(かんぺき)修復(しゅうふく)していますから」
 智樹(ともき)の言う通りだった。五十代の頃に感じていた腰の重みも、古傷の痛みも、すべて霧散(むさん)している。キズナは篤司(あつし)が「損傷(そんしょう)」とみなしていた老化さえも、深い傷と同じように治癒(ちゆ)し、彼を全盛期(ぜんせいき)の姿へと巻き戻してしまったのだ。

癒蔓の子・特別編:キズナ・6