第四部:帰還


町へ向かう

結界を出る

探索隊が結界を出る。 外の世界。人間の社会。

智樹にとって、1〜2ヶ月ぶり。

……帰ってきた。 いや、帰れるのか? この姿で。

ユキが智樹の不安を感じ取る。 そっと寄り添う。力を込めすぎないように。

だいじょうぶ。 ユキ、いっしょにいる。

篤司の同行

篤司が隣を歩く。

「俺がついていく」 「証言の場にも、その後の手続きにも」 「一人で行かせるつもりはない」

智樹、少し安心する。 でも、緊張は解けない。

移動中の視線

町が近づくにつれ、人の気配が増える。

すれ違う人々の視線。 驚き、恐怖、好奇、嫌悪。

……あれ、見たことある。配信の。 屍蔓憑きの人だ。 本当にいたんだ……

囁き声が聞こえる。 智樹、顔を伏せたくなる。

篤司が声をかける。

「堂々としてろ」 「お前は何も悪いことしてない」

分かっている。分かっているけど。


ギルドでの証言

到着

冒険者ギルド。 智樹が冒険者になった場所。 もう何年も前のことのように感じる。

入口で、職員が固まる。

「……篤司さん、その方は」 「証言者だ。通してくれ」

待機室

個室に通される。 他の冒険者の目に触れないように、という配慮。 ありがたいような、悲しいような。

智樹、椅子に座る。 ユキが静かにしている。「おとなしくしてる」と伝わってくる。

……ありがとう、ユキ。

証言

協会の役員が来る。 記録係もいる。

質問に答える形式。 智樹、つっかえながらも話す。

  • 薬草の群生地を見つけたこと
  • 先輩冒険者に襲われたこと
  • ジャミング機で通信を妨害されたこと
  • 殺されかけたこと
  • 逃げて、結界の奥で倒れたこと
  • 目を覚ましたら、ユキがいたこと

「ドローンの録画は確認しました」 「あなたの証言と一致しています」

智樹、少し力が抜ける。

追加質問

「共生中の1〜2ヶ月、何をしていましたか」

智樹、言葉を選ぶ。

「……生き延びていました」 「水を飲んで、食べ物を探して」 「ユキと……一緒に」

詳細は聞かれない。 ドローンの録画で確認済みだろう。

あのパニック映像、見られたんだな——と思うと、顔が熱くなる。


先輩冒険者の処分

報告

証言の後、篤司から報告を受ける。

「先輩冒険者たち、正式に起訴された」 「お前への襲撃、殺人未遂、虚偽報告」 「それだけじゃない。余罪が出てきた」

余罪

智樹だけじゃなかった。

同じ手口で狙われた新人が、他にもいた。 身寄りのない、消えても騒がれない相手を選んで。 縄張りを荒らしたと因縁をつけて、口封じ。

「今まで表沙汰にならなかったのは——」 「被害者が『消えても誰も探さない』奴らだったからだ」

智樹、拳を握る。

「……俺だけじゃ、なかったんですね」 「ああ。お前が生き延びたから、全部明るみに出た」

判決

「資格剥奪は当然として」 「刑事罰、余罪が多すぎて終身刑になりそうだ」

智樹、複雑な気持ち。

ざまあみろ、とは思えない。 他の被害者たちは、助けてくれる癒蔓に出会えなかった。 自分が生き延びたのは、運が良かっただけだ。

ユキがいなかったら、俺も——

ユキが智樹の手を撫でる。 「いるよ」と伝えている。


智樹の処遇

保護観察

協会からの通達。

「あなたの処遇について」 「世論の反応、証言内容、探索隊の報告を踏まえ——」 「『保護観察』という扱いになります」

殺処分ではない。 隔離でもない。 条件付きで、社会生活を送ることを許可される。

智樹、息を吐く。

「……殺されない、んですね」 「世論が味方になったおかげだ」

あの配信。 泣いている自分、ユキに撫でられている自分。 恥ずかしい映像だったけど——あれが、自分を救った。

条件

「条件があります」 「配信ドローンを、異界外でも常時録画モードにしておくこと」 「配信ではなく録画。プライバシーには配慮します」 「万が一の時の証拠保全と、あなた自身の安全確保のためです」

智樹、頷く。

「分かりました」

監視されている、とも言える。 でも、守られている、とも言える。

社会的後見人

「あなたには身寄りがない」 「社会的後見人が必要です」

身寄りがない。 天涯孤独。 だから冒険者になった。だから狙われた。

「後見人は——」

篤司が口を開く。

「俺が引き受ける」

智樹、驚いて振り返る。

「篤司さん……?」 「保護観察の担当も兼ねる。どうせ面倒見るなら、まとめてやった方が楽だ」

篤司の本音

後で、二人きりになった時。

「……なんで、俺なんかの後見人を」

篤司、少し間を置いて答える。

「協会は、お前みたいな新人を守れなかった」 「先輩冒険者の連中、前から怪しいと思ってた。でも証拠がなかった」 「お前の前にも、消えた奴がいたかもしれない」

視線を逸らす。

「……贖罪、ってほどじゃないが」 「今度は、守れる立場にいたいと思っただけだ」

智樹、何か言おうとして——言葉が出ない。 代わりに、頭を下げる。

「……よろしくお願いします」 「ああ。よろしく」


配信映像の扱い

確認

証言の後、篤司が改めて説明する。

「お前のドローンの録画、全部確認された」 「襲われてから、俺が追いついた時まで。1〜2ヶ月分」

智樹、覚悟していた。でも、やっぱり恥ずかしい。

「……全部、ですか」 「全部だ」

協会のみ

「ただ、見たのは協会の確認担当だけだ」 「外部には出ない。協会の信用に関わるからな」 「パニックになってたところ、全部守秘義務の対象だ」

智樹、心から安堵する。

あの映像。 水辺で頭から突っ込んで水を飲んでいたところ。 「何も出てない」と気づいてパニックになったところ。 ユキを撫でて泣いていたところ。

全国に流れていたら、死んでいた。社会的に。

「……ありがとうございます」 「礼を言う相手が違う。協会の判断だ」

配信されたもの

「ただ、俺の配信で流れた分は——」 「お前を追いかけたところから、ユキに撫でられて泣いてるところまで」 「あれは、もう広まってる」

智樹、頭を抱える。

「……知ってます」 「切り抜きも出回ってるらしいな」 「聞きたくないです」

世論

「まあ、おかげで世論が味方になったんだがな」 「『屍蔓憑きの人、被害者っぽい』『関係性が良すぎる』」 「『共生できるなら危険じゃないのでは』——って」

黒歴史と引き換えに、命が助かった。 割に合うのか合わないのか、分からない。

ユキが智樹の背中を撫でる。 「げんき出して」と伝わってくる。

……お前のせいでもあるんだけどな、ユキ。

でも、恨む気にはなれない。


新しい住居

手配

協会が住居を手配してくれた。 町外れの小さな家。人目につきにくい場所。

「ここなら、ドローンの映像を見られる心配も少ない」 「異界への出入りもしやすい」

篤司が案内してくれる。

内見

小さな家。 でも、森の中で野宿していた身には、十分すぎる。

屋根がある。壁がある。床がある。 水道がある。電気がある。

「……ここに、住んでいいんですか」 「保護観察中の住居だ。家賃は協会持ち」

智樹、部屋を見回す。 ユキも一緒に見ている。蔦がきょろきょろと動く。

ここ、ユキたちのいえ? ……うん。俺たちの家だ。

日当たり

窓から日が差している。

「日当たりはいいぞ」 「……ありがとうございます」

篤司、少し笑う。

「光合成、できるだろ」

智樹、顔が赤くなる。 あの映像、見られてるんだった。


第四部の終わりに

智樹の心境

天涯孤独だった。 冒険者になったのも、他に行く場所がなかったから。

襲われて、死にかけて、化物になって。 でも——

今、住む場所がある。 面倒を見てくれる人がいる。 一緒にいてくれるユキがいる。

最悪の出来事から、最悪じゃない結果になった。 ……変な話だな。

ユキの気持ち

新しい場所。 智樹と一緒に暮らす場所。

ここ、あったかい。 このひとと、いっしょにいられる。 うれしい。

篤司の言葉

帰り際、篤司が言う。

「定期的に様子を見に来る」 「何かあったら連絡しろ。ドローン経由でも、直接でも」 「……飯、ちゃんと食えよ」

智樹、頷く。

「食べます。肉を」 「光合成も忘れるな」 「……はい」

篤司が去っていく。

智樹、窓辺に座る。 日が差している。 ユキが葉を広げる。

……これから、どうなるんだろう。 でも、まあ。 悪くない、のかもしれない。


癒蔓の子・終章ネタ練り