朝の光がカーテンの隙間から差し込み、白いシーツの上に柔らかな影を落とした。
隣で眠る詩織の髪は、光を受けて一層鮮やかな緑を帯びている。あたしの髪の深い緑と並ぶと、まるで二本の蔦が寄り添うようだった。
指先に触れる温もりに目を落とす。
あたしたちの左手の薬指には、いつの頃からか緑の蔦が絡みついていた。輪を描くように編み込まれたそれは、抜け落ちることのない指輪。
病気の証ではない。未来へと続く証。
遠く、デイルームのテレビから、ニュースの音声が流れていた。
「花吐き病に新たな変異の兆候が——」「政府は対策を——」
マスコミが今までと変わらず不安を煽る調子に、思わず苦笑する。
「いよいよ隠し切れてないじゃん、ざまあ」
彼らにとってこれは今も【病】でしかないのだろう。
でも、あたしたちはもう知っている。ここにあるのは衰退ではなく、進化だということを。
詩織がゆっくりと目を開け、あたしを見て微笑む。
ふたり、呼吸と脈を揃えると、腹の奥の脈も追いかけてくるのが愛おしい。
「健やかなるときも、病めるときも……」
あたしは小さく囁いて、笑った。
「だったっけ? もう、離さないよ」
その言葉に応えるように、窓辺の緑が揺れる。
花吐き病はもはや病ではない。——あたしたちが選んだ、新しい生のかたち。
政府や社会が何を叫ぼうとも、あたしたちの未来はもう他人の手の中にはない。
詩織は優しいから、体調が完全に落ち着けば花吐き病の真実について公表しようとするだろう。花を吐いて苦しむ人が、一人でも減ることを願って。
あたしは世の中がそこまで甘くないと思うから、それまでに少しでも反撃の材料を集めておこう。あたしと詩織と——子どもたちのために。
「もう、灯香ったら」
あたしの決意を悟っているだろうに、詩織は蔦の指輪を確かめるように触りながら、穏やかに笑った。
「その言葉、もっと早く聞きたかったな。これじゃ、できちゃった婚みたいじゃない」