吐くたびに、胸の奥が裂けるように痛んだ。
咳と一緒に花弁が溢れ、血に濡れた赤紫がシーツに散る。
呼吸は荒く、胸が上下するたびに点滴の管がわずかに揺れた。
——それでも、まだ持ちこたえている。
同じ病棟で、わたしより症状の軽かった患者さんが次々と静かな永の眠りについたのを知っている。本来なら、こんなに吐き続けていれば臓器は持たないはずだ。
それなのにわたしの心臓は脈を刻み、血流は絶えず、こうして意識は戻る。
死ねない理由は分かっていた。
——灯香が、待っている。
わたしを案じている人がいる限り、簡単に終わるわけにはいかない。
眠りに落ちるたび、夢の底であの囁きが聞こえた。
——吐くのは、間違い。選ぶのは、おまえ。
そして今回は、言葉だけでなく像が伴った。
暗闇の中で、指先から細い葉が芽吹く。
まとめられることなく伸びた髪が、淡く緑を帯びる。
胸の奥に、小さな蕾が脈打つように震えていた。
あまりに生々しい。幻覚と片づけるには、体内に根を張られる感覚があまりに具体的すぎる。けれど、医師としての知識では説明できない。
これが延命の理由なのか、それとも死に至る前触れなのか——。
ただ一つ言えるのは、夢が日に日に鮮明になっているということだった。
看護師が検査のためにカーテンを開け、血液を採取していく。
彼ら彼女らの表情に浮かぶ戸惑いを、わたしは見逃さなかった。
数字の上では、わたしの状態は説明がつかないのだろう。臓器の多くが恐らく既に機能不全を起こしているはずなのに、わたしはまだ動けてしまう。
——選ばれた。
夢の中で聞いた言葉が、覚醒した意識にも残響していた。
選ばれた、とはどういう意味なのか。わたしは何を選ぶことを求められているのか。
花を吐くたびに苦しみは増す。けれど、不思議と心の奥は研ぎ澄まされていく。
生き延びる方法があるのだとしたら、それを掴むのは自分だという確信が、じわりと芽吹いていく。
まだ形にならない希望と、拭えない恐怖。
その両方を胸に抱えたまま、わたしは目を閉じた。
次に夢の声が訪れるとき、その意味を少しでも掴めるようにと願いながら。