モニターに開いたウィンドウが幾重にも重なっていた。
 消える前に必死で保存したスクリーンショット、切り抜いたログ、断片的な見出し。
 それらを並べ、線で繋ぎ合わせていくと、まるで一枚の地図のような因果が浮かび上がってきた。

 ——発端は、国立研究所。レトロウイルスを活用、絶滅植物の遺伝子を再生させ、その形質を発現させる実験で、動物にも寄生する力を持った新種が生まれた。
 種子は何らかの形でリークされ、微小化され、飛沫や接触でヒトに寄生——感染。
 感染が広がったとき、政府は情報を操作し、創作ネタの残滓に埋もれさせた。

 どの断片も、決定的証拠ではない。
 けれど、ひとつずつ繋ぎ合わせれば確かに一本の線になる。
 あたしの目の前には、因果の地図が描かれていた。

 スクリーンの光に照らされた机の上は、紙のメモや印刷されたスクリーンショットで散らかっている。消される危険が付き纏う以上、端末内に残すだけでは心許ない。手書きの付箋に日付とキーワードを走り書きし、矢印で繋いでいく。

 ——国立研究所。レトロウイルス。遺伝子操作。形質の発現。寄生する新種。
 ——種子のリーク。微小化。ヒトへの寄生。飛沫感染。接触感染。
 ——政府の隠蔽、情報統制。病院への圧力。

 点と点は、確かに一本の線になった。
 しかしどれほど掘っても、「治療法」の欄だけは空白のままだ。

 花を吐いたら、終わり。
 いくつもの記録が、それを裏付けるだけ。
 絶望が胸を締め付ける。指先が、震えてキーを叩く速度が落ちていく。

「……どうすればいいんだよ」

 呟きは小さく、部屋の闇に吸い込まれた。
 地図は描けたのに、そこから先に進む道は示されていない。

 ——詩織なら。
 頭の片隅で、その可能性が浮かぶ。
 医師として、病棟で数えきれない患者を見てきた彼女なら。
 あたしには理解できない断片の意味を、解き明かしてくれるかもしれない。

 スマホに伸ばしかけた手が止まる。
 もし、通じなかったら。もう、返事が返ってこなかったら。

 逡巡の末に、画面に光が宿る。
 震える指先が番号をなぞる。
 呼び出し音が、静まり返った部屋にひときわ大きく響いた。

第九章 髪に芽吹く(詩織)