その日は突然にやってきた。浜辺で魔力を食べていたら、海の向こうからとても混濁(こんだく)したモヤが飛んできたのだ。玉虫色を通り越して(にご)り切った魔力に絡みつかれ、オレには見覚えのないグリフォンが、暴れ狂っていた。
 なるほど、魔紋(まもん)と呼ばれる(あざ)は、これか。元は立派であっただろう羽毛も禿()げ、全身に絡みつくかのような模様がくっきりと見える。でも、これってひょっとして、一般的な生き物が持つという、魔力回路が()れているのではないだろうか?
 あ、魔力回路とは、体内に魔力を貯蓄(ちょちく)し、循環(じゅんかん)させている、第二の血管のようなものらしい。ちょうどその話を昨日、()グリフォンから聞いてたんだよな。
(パパ!)
 その()グリフォンの悲鳴で、オレは考え事から現実に引き戻された。えっ、パパだって? この、多分、魔物になってしまったグリフォンが?
(パパ、ぼくだよ! 暴れないで! って、うわぁ!)
 推定父グリフォンは、()グリフォンの思念など聞こえないかのように、くわっと(くちばし)を開くと大きな雷球を吐き出した。直撃した()グリフォンが、悲痛な声で鳴く。それでも止まる様子なく、更に大きな雷球を吐いたので、オレは咄嗟(とっさ)に二匹の間に飛び出した。
 いくら理性を失っても、子供にそれはないだろう! ……オレの小さすぎる体で、どこまで(かば)えるかはわからないけれど。
 目を(つむ)って衝撃に備えたけれど、いつまで経っても何も起こらない。というか、ちょっとお腹が膨れてきた気がする。
 えっ。もしかしてオレ、魔法も食べられる?

1-15【やはり間違いなく、魔物は元に戻せる】