「ただいま。生きてるか」
 智樹(ともき)の家に、新しい声が(ひび)く。
 見た目は二十代前半の青年。だが、その鋭い三白眼と、不遜(ふそん)態度(たいど)高峰(たかみね)篤司(あつし)そのものだ。
篤司(あつし)さん、その(しゃべり)り方はやめてください。今は俺が保護観察担当(ほごかんさつたんとう)なんですから、もっと『息子さん』らしく」
(だま)れ。中身まで若返ったつもりはない」
 対外的なストーリーは完璧(かんぺき)に整えられた。高峰(たかみね)篤司(あつし)殉職(じゅんしょく)し、その現場で発見された「記憶の曖昧(あいまい)な息子(仮)」を、智樹(ともき)が引き取る。
 社会的な立場は逆転したが、家でのやり取りは変わらない。
「飯、もう食ったか」
「ハンバーグです。肉、美味しいですよ」
「光合成は」
「……さっき、あそこで篤司(あつし)さんと一緒にしたじゃないですか。まあでも、どれだけやっても困るものでもないですし、もう一回行きます?」
 庭に出て日向(ひなた)ぼっこをする二人と二株。
 篤司(あつし)は、キズナを通じて庭の植物たちが(ささや)き合う声を聞いていた。ユキがキズナに、「人間は複雑だけど、温かいんだよ」と教えているのが伝わってくる。
 自分がいつか、この少年を一人にしてしまうことを恐れていた。
 けれど今、自分たちの時間は等しく止まった。
「……智樹(ともき)
「何ですか、篤司(あつし)さん」
「長生きできるんだろう? お前と一緒に」
 智樹(ともき)は一瞬目を見開き、それから今までで一番晴れやかな笑顔で(うなず)いた。
「はい。……死ぬほど退屈(たいくつ)するまで、一緒にいますよ」
 冬の終わりの(やわ)らかな陽光が、二人と二株の新しい影を、庭の隅々(すみずみ)にまで広げていた。