そもそも、なぜLLMが書いたメモを、あとから探す必要が出てくるのでしょうか。
この章では、非エンジニア、かつLLMが大好きな筆者が、LLMを使い続けるうちに困るようになったことを振り返ります。
困ったこと、ではなく、困るようになったこと。
LLMを日常的に使うようになると、どんなことが起こってくるのか。
順番に見ていきましょう。
1-1 プロンプトに資料を貼るのは面倒くさい
LLMに何かを相談するとき、一番話が早いのは、前提を知ってくれている相手です。
けれども、LLMとの会話は、基本的にまっさらな状態から始まります。
たとえば、書きかけの小説の続きを相談したいとします。
世界観、登場人物、これまでのあらすじ。
それを毎回、会話の冒頭で説明するのでしょうか。
資料をファイルにまとめてあれば、アップロードで済みます。
けれども、これも意外と手間です。特にスマホからだと、ファイルを選んで渡すだけでひと仕事になります。
クラウドLLM側でも、資料を再利用する、「プロジェクト」のような機能を持つ場合があります。
しかし、書き進める度に資料が変わる場合は、結局アップロードが必要です。
そして、もっと根本的な問題があります。
アップロードする以前に、「どの資料を渡せばいいのか」を、自分が探さなければならないのです。
相談のたびに、前提を貼る。
貼るために、資料を探す。
LLMと話すこと自体は楽しいのに、その手前の準備が、じわじわと面倒になってきます。
1-2 必要な資料を探すのも面倒くさい
では、その「探す」は、どれくらい大変なのでしょうか。
メモが30枚くらいまでなら、正直、目視で十分です。
フォルダを開いて、上から眺めれば見つかります。
けれども、LLMを日常的に使っていると、メモは増えます。それも、かなりの速さで。
自分の手でメモを書くときは、書く手間そのものがブレーキになります。
一方、LLMに会話をまとめてもらうのは楽です。
「この会話、まとめておいて」のひと言で、それらしいメモが出来上がります。
楽なので、とりあえずまとめて保存するのが習慣になります。
LLMとの会話のサマリーや、LLMに書かせたwiki風のメモは、こうして増殖していきます。
気づけば数百枚。
そうなったとき、「あの話、どこに書いたっけ」が始まるのです。
1-3 「宣伝 苦手」で出てこないメモたち
ここで、筆者が実際に困った話をします。
筆者は同人活動をしていて、宣伝が苦手です。
本を作るのは好きなのに、告知の段になると手が止まる。そんな悩みを、あるときLLMに相談しました。
良い相談ができたので、会話をまとめてもらい、メモとして保存しました。
数週間後、その話を読み返したくなって、ファイル名で以下の言葉を探そうとしました。
「宣伝 苦手」
出てきません。
もし自分の手でこのメモを書いていたら、「宣伝が苦手で本が広まらない件」のような題名を付けていたはずです。
それなら、ファイル名だけで一発で引けます。
けれども、LLMがまとめたファイルの名前は「同人活動について」でした。
宣伝の悩みは、その中の見出しの一つとして、他の話題と一緒に埋もれていたのです。
ファイル一覧を眺めても、見つかりません。
「同人活動について」という題名から、あの日の悩み相談を思い出せなかったからです。
では、ファイルの中身まで丸ごと検索したらどうでしょうか。
全文検索と呼ばれる手法です。
ここで、もう一つの問題にぶつかります。
LLMが本文中で「宣伝」と書いてくれたのか、それとも「告知」なのか、「広報」なのか、「PR」なのか。それが分からないのです。
LLMは、整った言葉でまとめます。
「宣伝が苦手」は「告知活動への心理的な抵抗感」になっているかもしれません。
間違ってはいません。むしろ的確かもしれません。
けれども、未来の自分がとっさに探すのは、「宣伝 苦手」なのです。
1-4 未来の自分は違う語彙で探す
前の節の困りごとを、少し引いて眺めてみます。
自分で書いたメモは、自分の言葉で書かれています。
だから、自分の言葉で探せば、引っかかります。
LLMが書いたメモは、LLMの言葉で書かれています。
題名も、見出しも、本文の言い回しも、少しずつ自分の語彙とずれます。
しかも、厄介なことに、整った要約ほど、このずれは大きくなりがちです。
きれいに抽象化された言葉は、本人がとっさに思いつく生の言葉から、遠ざかっていくからです。
そしてもう一つ。
探すのは、いつも未来の自分です。
メモを作った時点では、何がどこに書いてあるか、全部分かっています。
困るのは、数週間後、数ヶ月後。中身の記憶が薄れて、断片的な言葉だけが残っている頃です。
メモは、作った時ではなく、探す時に困る。
この本で考えたいのは、まさにこの「探す時」のための備えです。
1-5 検索性は後から育てられる
では、どうすればよいのでしょうか。
まず、ファイル名検索だけでは足りません。
題名に入っていない言葉は、引けないからです。
タグを付けるのも有効ですが、それだけでも限界があります。
付けた分類でしか引けませんし、タグの種類が増えすぎると、今度はタグ自体が迷子になります。
本文の全文検索も、万能ではありません。
前の節で見たとおり、書かれた語彙と探す語彙がずれていると、引っかからないのです。
つまり、一つの方法だけで全部を解決しようとしても、うまくいきません。
けれども、悲観する話でもありません。
すでに書き溜めたメモを、捨てる必要はないのです。
検索のしやすさは、メモを作った後からでも、段階的に足していけます。
手軽な工夫から始めて、メモが増えてきたら次の段階へ。
この本では、その段階を梅・竹・松の三段階に分けて紹介していきます。
その前に、次の章では、いまのあなたのメモがどの段階にいるのかを、一緒に診断してみましょう。