ルークスの足取りを追って、森の外れの町に着いたのは、昼を少し回った頃だった。
この時期であれば秋祭りの準備で賑やかなはずなのに、どこか落ち着かない空気が漂っている。
まずは情報だ。知り合いの宿に荷を置き、行商や狩人たちの集まる酒場へ向かう。
酒場の片隅で、わたしに気付いた顔馴染みの一人が立ち上がった。
「あんた……ルークスの……」
彼の言葉を最後まで待たずに、胸の奥がざわついた。
話を聞けば、あの子は去年、この町で人攫い蜂退治の依頼を請けたという。
しかし、森に入ったきり帰らなかった。
わたしたちはこの町には一方的に立ち寄るだけで、連絡先なんて教えていなかったから……わたしに伝えたくても、伝えられなかったようだ。
顔馴染みから紹介された依頼人の口ぶりには後悔が混じっていたが、それを責める気にはなれなかった。
わたしは、静かに言った。
「その依頼、わたしが引き継ぎます」
顔馴染みも依頼人も、必死になって危険だと止めてくれた。
わたしが、引かなかった。
人攫い蜂は今年も現れているらしい。その数も、増えているのだとか。
ならば、放っておけば、また犠牲者が出る。ルークスは優しい子だったから、この依頼を請けたのだろう。
仇を取るためにも、わたしが行くしかない。
準備のために市場を回っていると、耳に別の噂が入った。
「森の奥に、危険な植物がいるらしい」
ただでさえ危険な食肉植物。それが今年は大型の魔物を何匹も捕食して、異常成長しているようだと。だからもう、今は誰も、森の奥まで踏み込まないのだと。
わたしはそれを話半分に聞き流した。森の奥には昔から得体の知れないものがいる。
食肉植物は確かに危険だけれど、大きく育っているのなら、逆に見つけやすい——いきなり捕食の憂き目に遭いにくい。
情報としてはありがたい、けれど今は、蜂を倒すことが先決だ。
夕暮れが町を染める頃、荷をまとめた。
ルークス。一年も、森の中。誰にも看取られることなく。
遅くなってしまったけれど、今、わたしが迎えに行くから……