大体、ちょっと疲れて有給休暇を取っただけなのに、どうしてオレは異世界に、こんな頼りない体で放り出されないといけなかったのだろう。現実逃避(げんじつとうひ)を願うのはそんなにダメなことだったのか。承認欲求(しょうにんよっきゅう)はそんなに悪いものだったのか。
 泣くのはみっともないと、元人間の理性が(わめ)いているけれど、感情に素直な体がしょげかえってポロポロと涙を(こぼ)す。そして泣けば泣くだけ、空腹感が(ひど)くなってきた。泣くのにも体力を使うほど脆弱(ぜいじゃく)な体だと、また泣けてくる悪循環(あくじゅんかん)
 腹ペコのあまりに目も回ってきて、起き上がれる気がしない。ぐったりしているオレを、()グリフォンが(くちばし)で転がしてくる。余計に目が回るから、いっそのこと、この()から……この()から?
 ハッと意識が浮上した。オレは今、何をしようとしていた?
 ちょっと何かをつまみ食いしたかのような満足感。けれど、母グリフォンが()(かば)っている。よくよく何を食べたのか考えたら、オレ、もしかして()グリフォンの生命力を……
 頭から血の気が引いたのを、自覚した。どうしよう、オレは、どうしたら。
 オレが食べてしまったものは吐き戻せないのか。というか、吐き戻せたとして、元に戻るものなのか。
 オレの所為(せい)()グリフォンがどうにかなってしまうのは、許せなかった。誰かを犠牲(ぎせい)にするくらいなら、オレが。
 猛烈(もうれつ)飢餓感(きがかん)と共に、周りの色が薄れていく。ブラックアウトしていく視界の中、()グリフォンが光り(かがや)いたかのように見えた。
 助けることができたと勝手に信じて、目を閉じた。

1-10【思っていた以上に、周りが構ってくる】