第二部:探索隊との遭遇
探索隊の編成
発端
先輩冒険者たちが遺跡(庵)の発見を協会に報告した。
報告内容:
- 結界内に古代遺跡らしきものを発見
- 屍蔓の生息地として危険
- 一緒にいた新人は屍蔓に襲われて死亡
隠したこと:
- 新人を襲って殺しかけたこと
- 遺跡発見の手柄は本当は新人のもの
- 口封じのつもりだったこと
探索隊のメンバー
- 学者(人気配信者、登録者数十万人)
- 篤司(手練の冒険者、協会職員兼任、配信は公開でニッチなファンあり)
- 篤司のパーティメンバー(護衛本隊)
- 先輩冒険者たち(案内役)
- その他サポート要員
篤司の役割
表向き:危険な屍蔓の生息地だから護衛として
本音:案内役の連中が信用できないから監視役として
協会は先輩冒険者たちを以前から要注意人物としてマークしていた。証拠こそないものの、トラブルの噂が絶えない連中。だから手練の篤司をつけた。
遭遇
智樹の状況
共生から1〜2ヶ月が経過。
ユキとの関係は安定し、対等な共生に近づいていた。
森の感覚が分かるようになり、庵の近くまで戻ってきていた。
でも、庵に近づくか悩んでいた。
- 人が来るかもしれない
- この姿を見られたら殺される
その時、探索隊がやってきた。
隠れようとする
智樹は先に探索隊の気配を察知。
咄嗟に隠れようとする。
でも、新人冒険者。気配の隠し方が甘い。
篤司には通じなかった。
「……気配がある。隠れてる。下手くそだな」
見つかった。
ユキの反応
智樹が先に状況を把握している。
ユキは智樹に判断を委ねる。
巻きつくまではいかない。
智樹が動けるように、防御の構えを取る。
攻撃と逃走
先輩冒険者の反応
智樹を見て、一瞬固まる。
生きてる?
いや、あれは屍蔓に乗っ取られた成れの果てだ。
そういうことにしないと——
「魔物だ! 殺せ!」
真っ先に攻撃を仕掛ける。口封じのために。
智樹の反応
言い返したい。違う、俺は人間だ、お前らが——
口を開ける。
「——っ、ぁ」
言葉が出ない。
1〜2ヶ月、人間と喋っていない。
ユキとは感情でやり取りしていた。声を使っていなかった。
言葉を組み立てる回路が錆びついている。
ユキの防御
智樹が「攻撃はまだ、防御だけ」と念じる。
ユキは従う。
蔦で攻撃を弾く、受け止める。
でも反撃しない。
智樹が逃げやすいように構える。
逃走
言えない。伝わらない。
智樹が走り出す。ユキは背後を守りながら一緒に逃げる。
篤司が見ていたもの
- 「魔物だ」と叫んだのは案内役
- 屍蔓憑きは攻撃してこなかった
- 何か言おうとしていた、言葉が出なかった
- 防御だけして逃げた
- 案内役の連中、やけに必死だな……何かあるな
「様子を見てくる」
単独で、智樹を追う。
追跡と捕捉
追いかける篤司
智樹は共生のおかげでスタミナがある。持久力なら負けない。
でも篤司は瞬発力が違う。長年鍛えてきた足腰、最短距離を読む経験。
回り込まれた。
退路を塞がれた。
両方パニック
智樹:
殺される。
捕まったら殺される。
屍蔓憑きは殺される。
頭が真っ白になる。久しぶりの、人間に追われる恐怖。
ユキ:
智樹の恐怖がそのまま流れ込む。
こわい。
このひと、こわがってる。
ころされる?
いつもなら智樹が「大丈夫」と念じてくれる。
でも今、智樹から来るのは恐怖だけ。
ストッパーがいない。
ユキが巻きつく
咄嗟に、蔦が智樹に巻きつく。
腕に、肩に、胴に、首に近いところにも。
はなさない。
まもる。
このひと、ユキの。
ぜったい、はなさない。
怯えているから、力加減が分からない。
ぎゅうぎゅうと締め付ける。
智樹の状態
息は苦しくない。酸素はユキから供給されている。
声は出せない。喉に蔦が巻いて声帯が圧迫されている。
でも——純粋に物理的に痛い。
——っ、痛い……っ
肋骨が軋む。腕が痺れる。
「緩めろ」と念じたい。でも自分も怯えている。「大丈夫」と思えない。
だからユキにもうまく伝わらない。
対話の始まり
篤司の観察
回り込んで追いついた。
蔦が宿主に巻きついている。締め付けている。
乗っ取ろうとしている?
抵抗したから締め殺そうとしている?
一瞬そう思った。でも、違う。
宿主を「殺そう」としているなら、もっと効率的に締める。
これは——しがみついている。怯えた動物が丸まるように。
窒息もしていない。首に蔦が巻いているのに、顔色がさほど変わらない。
呼吸は別ルートで確保されている?
……両方、怯えている。
篤司の行動
武器を構えていたら余計に怯える。
少し下がって、ゆっくり手を上げる。武器を持っていないことを示す。
「……待て」
「殺さない」
「話を聞きたいだけだ」
宿主の目がこちらを追っている。まだ怯えている。でも、聞いている。
「……楽にしてやれ」
「締めすぎだ。お前の大事な奴が苦しんでるぞ」
ユキに届く
智樹を通して、言葉が流れてくる。意味は分からない。でも——
このひとから、「くるしい」が きてる。
わたしが、くるしくしてる?
はっとする。
智樹から「痛い」が来ていた。怖くて気づかなかった。
ごめん、ごめん。
いたかった?
ごめんなさい。
慌てて緩める。離しはしない。でも痛くない程度に。
智樹、息をつく
締め付けが緩んだ。肋骨が解放される。
……ユキ、お前、力加減……
念じる。文句ではなく安堵として。
ユキから「ごめんなさい」が伝わってくる。しゅんとした感覚。
……いい、分かったから。
お前も怖かったんだろ。
話を聞く
篤司の問いかけ
腰を下ろす。同じ目線に近づける。威圧しないように。
「落ち着いたか?」
「さっきも言ったが、こっちはお前の話を聞きたいだけだ」
「何かあったんだろ」
智樹の反応
話したい。言いたいことはある。
先輩冒険者に襲われたこと。殺されかけたこと。自分は被害者だということ。
口を開ける。
「……っ」
声が出ない。喉の蔦はもう緩んでいる。
でも、1〜2ヶ月人間と喋っていない。言葉を組み立てる回路が錆びついている。
「……あ、の」
「お、れは……」
「ちが……俺、は……」
言いたい。伝えたい。なのに言葉が出てこない。
涙が溢れる
言葉の代わりに、涙が出る。止められない。
1〜2ヶ月、誰にも言えなかった。
ユキには感情は伝わる。でも「言葉で聞いてもらう」ことはできなかった。
「何かあったんだろ」——たったそれだけの言葉。
「お前の話を聞きたい」という姿勢。
それだけで、堪えていたものが決壊する。
ユキの反応
智樹から感情が溢れ出している。
「かなしい」「くやしい」「くるしい」「つたえたい」「きいてほしい」
ぐちゃぐちゃに混ざって流れ込んでくる。
このひと、ないてる。
どうしよう。どうしたら楽になる。
覚えたことをやる。
蔦が動く。智樹の肩を、頬を、背中を。ぎこちなく撫でる。
だいじょうぶ。
ユキ、ここにいる。
ひとりじゃない。
篤司が見ているもの
泣いている若者。言葉が出なくて涙を流している。
そして——蔦がその若者を撫でている。
さっきまで締め付けていた蔦が。今は撫でている。
宿主が泣いているから。宿主を慰めようとしている。
……これは。
長年冒険者をやってきた。屍蔓の話も聞いてきた。
こんなもの、見たことがない。
黙って待つ。泣き止むまで。話せるようになるまで。
証拠の発見
ドローンの存在
智樹がつっかえつっかえ説明している間、篤司はその横に浮いているものに気づいた。
ボロボロの撮影ドローン。魔力浮遊式。
智樹の魔力に紐づいて自動追従する。外装はボロボロ、通信機能は死んでいる。一般的な操作もできない。
でも——小さなランプがまだ点滅している。
……録画のランプ、消えてないな。
ドローンの意味
智樹にとって、このドローンは——
自分が冒険者だった証。自分がまだ「人間」である証。
1〜2ヶ月、壊れていても捨てられなかった。
縋るように傍に置いていた。
ユキも大事にしていた。智樹が大事にしているものは、ユキも大事。
蔦で傷つけないようにしていた。
篤司の確認
協会職員だから、外部からデータを呼び出すツールを持っている。
接続を試みる。
通信機能は死んでいるが、内部ストレージは生きていた。
映像データが残っている。
再生する。
智樹が薬草を採取している。先輩冒険者たちが現れる。
「おい、ここは俺たちの縄張りだ」「新人が生意気に」
襲われる智樹。逃げる智樹。追いかける先輩冒険者たち。
……案内役の連中だ。やっぱりか。
「お前の話、裏が取れた」
「これは証拠になる。預かるぞ、いいな」
智樹、声が出ないから頷く。また涙が出そうになる。安堵の涙。
ユキが智樹の背中を撫でる。
本隊での動き
篤司が追いかけている間
残ったパーティメンバーたちが、先輩冒険者たちを問い詰めていた。
「あいつら、様子がおかしかったな」
「『殺せ』って、やけに必死だった」
「あの屍蔓憑き、攻撃してこなかったのに」
篤司が日頃から「案内役は怪しい」と言っていた。だから問い詰め開始。
先輩冒険者の崩れ方
最初:「あれは化物だ、殺さないと危険だ」
追及されて:「う、うるさい! お前らに何が分かる!」
逆ギレ:「あのガキが悪いんだ! 俺たちの縄張りで勝手に——」
墓穴を掘った。
「……お前ら、あの若いのと面識あったのか」
捕縛
暴れたところを取り押さえられる。
証拠はなくても、自白に近い発言が出た。
パーティメンバーから篤司に連絡:
「案内役、捕縛した。自分からボロ出した」
篤司から智樹へ
「……あいつら、捕まったそうだ」
智樹、呆然とする。
「お前の話、裏が取れたってことだ」
配信されていたもの
二つのドローン
智樹のドローン:
- 通信機能が壊れていた
- ローカル録画のみ
- 1〜2ヶ月分、全部録画されていた
- 後から協会職員が確認
篤司のドローン:
- 普通に動いていた
- 公開配信中
- 協会に戻るまでずっと
- リアルタイムで全国に配信されていた
篤司の配信に映っていたもの
- 逃げる屍蔓憑きを追う篤司の視点
- 追いついた場面
- 蔦が智樹に巻きつく場面
- 締め付けられて苦しそうな智樹
- 「締めすぎだ、お前の大事な奴が苦しんでるぞ」
- 蔦が緩む場面
- 智樹が泣き出す場面
- ユキが智樹を撫でる場面
- 篤司が話を聞く場面
- つっかえつっかえ説明する智樹
学者の配信から流入
学者は人気配信者。同接十万人以上。
探索隊の配信を見ていた視聴者が、篤司の配信に流れ込んできた。
視聴者の反応(リアルタイム)
追いついた時:
「うわ、蔦が巻きついた」
「締め殺される!?」
「大事な奴」発言で緩んだ時:
「大事な奴って言ったら緩んだ」
「屍蔓が理解してる?」
「関係性……」
泣いてユキに撫でられている時:
「蔦が撫でてる」
「慰めてる……よね?」
「かわいい……?」
「いやいや屍蔓だぞ」
「でも撫でてる」
「尊い」
切り抜きが作られる
- 「屍蔓に撫でられて泣く冒険者」
- 「屍蔓、実は優しい説」
- 「宿主を締めすぎて怒られる屍蔓」
- 「『大事な奴』で緩む屍蔓まとめ」
智樹が知った時
篤司の報告
申し訳なさそうに言う。
「俺の配信、公開だったんだが」
「お前を追いかけたところから、ずっと配信されてた」
智樹:
「……泣いてるところも」
「……ああ」
「……ユキに撫でられてるところも」
「……配信された」
「……何人くらい見てました?」
「……同接、十万は超えてたと思う」
智樹、その場にしゃがみ込む。
さらに追い打ち
後日、協会で。
篤司:
「あの映像な……全部見た」
智樹:
「全部?」
「お前が襲われてから、俺が追いついた時まで。ずっと録画されてた」
智樹の顔から血の気が引く。
「……水辺で頭から突っ込んでたとこも」
「……見た」
「……何も出てないってパニックになってたとこも」
「……見た」
「……ユキを撫でてたとこも」
「……見た」
「……ユキに撫でられて泣いてたとこも」
「…………見た」
智樹、頭を抱える。
「……終わった」
不幸中の幸い
篤司:
「安心しろ、見たのは協会の確認担当だけだ」
「外部には出ない。協会の信用に関わる」
パニックの1〜2ヶ月は協会職員のみ。
配信されたのは探索隊との遭遇以降のみ。
恥ずかしい。死にたい。
でも、もっとヤバいやつは守られた。
世論の形成
配信を見た人々の反応
- 屍蔓が攻撃してこなかった
- 宿主を守ろうとしていた
- 宿主を慰めようとしていた
- 「大事な奴」で緩んだ
- 案内役の方がやけに必死で怪しかった
「屍蔓憑きの人、被害者っぽい」
「関係性が良すぎる」
「共生できるなら危険じゃないのでは」
世論が味方になった。黒歴史と引き換えに。
第二部のまとめ
| 出来事 | 智樹 | ユキ | 篤司 |
|---|---|---|---|
| 発見される | 隠れようとして失敗 | 防御の構え | 追跡開始 |
| 攻撃される | 言葉が出ない、逃げる | 防御のみ、反撃しない | 異常さに気づく |
| 追いつかれる | 恐怖でパニック | ストッパー不在、巻きつく | 観察する |
| 「大事な奴」 | 少し落ち着く | 締めすぎに気づく、緩める | 関係性を見る |
| 話を聞かれる | 言葉が出ない、泣く | 撫でて慰める | 黙って待つ |
| 証拠発見 | 安堵 | 智樹に寄り添う | 確信を得る |
| 先輩捕縛 | 信じてもらえた | よかったね | 予想通りだった |
第二部は「発見」と「信頼の獲得」の物語。
智樹とユキの関係が、第三者の目を通して「証明」された。
篤司という理解者を得て、社会に戻る道が開けた。
代償は——全国配信された黒歴史。