手製本の接着剤と熱源
家で作る手製本の準備物 の道具カテゴリのひとつ。糊を使う綴じ方(無線綴じ・糸かがり綴じ)の主役で、糊を使わない綴じ方(和綴じ・コプト綴じ・ロングステッチ)では出番なし——この切り分けが大きい。
家庭で扱える接着剤は大きく2系統、熱で溶かすホットメルト系と水性で乾かすPVA系。これに業務用のPUR糊を「景色として知っておく」枠で添える、という地形。
接着剤
基本編
- スティックグルー(EVA系ホットメルト) — 百均・ホームセンターで普通に買えるグルーガン用スティック。主成分EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)は商業無線綴じで使われるホットメルトとほぼ同系統。家庭版ホットメルト機の主役
- 木工用ボンド(PVA系) — 百均・ホームセンター。主成分は酢酸ビニル樹脂。塗布量の調整が容易、最終強度が高い、薄塗り2回が鉄則
- でんぷん糊 — 百均で買えるが無線綴じには非推奨(強度が出ない)。和紙工芸の領分
ステップアップ編
- 製本用ボンド(PVA系) — まるみず組・美篶堂などで扱う製本専用PVA。乾燥後の柔軟性が市販品より高く、背割れが起きにくい
- 寒冷紗(かんれいしゃ)/ガーゼ — 厳密には接着剤じゃないけれど、糊と一緒に背に貼る補強布。商業上製本の技法で、家庭でも背割れが大幅に減る
- PUR糊 — 反応性ポリウレタン。商業高級冊子の現行最上位、EVAの2倍の強度+柔軟性。家庭入手はほぼ不可能だが、「そういう上があるんだ」と知っておくと将来の視界が広がる。製本工房で使われているのを見学できる場所もある
併用戦略
無線綴じ経験者の体感としては、本文=スティックグルー、表紙貼り=木工用ボンドの併用が王道。熱溶融は即硬化+柔軟性、水性PVAは遅硬化+最終強度で性格が違うので、工程ごとに使い分ける。商業現場でも工程ごとに接着剤を変える発想は一般的で、これは賢い選択。
熱源
スティックグルーを使うときに必要。木工用ボンド派だけなら不要。
基本編
- ミニアイロン — 手芸用ミニアイロン(百均・手芸店)。家庭版ホットメルト機の主役。背に乗せた糊をクッキングシート越しに数十秒押し付けて溶かす
- ヘアアイロン(ストレート型) — 平面で温められるので代用可。家にあるならそれで
- クッキングシート or シリコンシート — 溶けた糊が道具に付着するのを防ぐガード。これがないとアイロンがベタベタになる
ステップアップ編
- 製本用ホットメルト機 — 業務用、価格は数万円〜。家庭でやる分にはミニアイロンで十分
- ヒートガン — 温度コントロールが効く、糊の溶かし方を細かく調整したい場合
使う綴じ方
- 無線綴じ(ペラ無線・あじろ綴じ) → スティックグルー+熱源 or 木工用ボンド、両方を併用も
- 糸かがり綴じ(フレンチリンク+くるみ) → 背固めにスティックグルー or 木工用ボンド、表紙貼りに木工用ボンド
- 和綴じ・コプト綴じ・ロングステッチ → 出番なし。糸だけで構造を作る系
つまずきポイントとコツ
スティックグルーが溶けすぎてはみ出す — クッキングシートで側面をガードする。固まる前にむしるのも有効
木工用ボンドの背が硬くなって背割れする — 厚塗りが原因。薄く2回塗りが鉄則。完全に乾いてから2回目
糊が冷却・乾燥途中で本がずれる — クランプ(手製本のプレス・固定具)でしっかり固定。冷却・乾燥中は動かさない
ミニアイロンの温度が足りない/高すぎる — 低温だと糊が溶け切らない、高温だと紙が焦げる。「クッキングシート越しに10秒押して、シートを剥がして表面が艶ありに変わる」あたりが目安
寒冷紗が表紙からはみ出す — 寒冷紗は本文の天地より少し短く切るのがコツ
隣接トピック
- 手製本のプレス・固定具 — 糊の硬化・乾燥中に押さえる道具
- 手製本の切る・削る道具 — 糊の食いつきを良くする背の毛羽立て
- 家で作る無線綴じ — 接着剤の使い方の本場
- 家で作る糸かがり綴じ — 糸+糊の併用、無線綴じ装備の再登板
ソース
- 家で作る無線綴じ — EVA系ホットメルトとPVAの比較、商業ホットメルトとの関係、PUR糊への憧れ
- 家で作る糸かがり綴じ — 背固めでの糊の薄塗り
- PUR製本とは?無線綴じとの違いと活用方法(紙ソムリエ) — PUR糊の特性、EVAとの比較
- 自社の無線綴じがレベルアップしていた件(大日印刷) — 現場視点でのEVA→PUR移行記録