手製本の印刷
コピ本を家庭用プリンタで刷るとき、インクジェットとレーザーで仕上がりがはっきり変わる。とくに文字主体の本文では、印刷方式の違いがそのまま読みやすさに出る。この記事は「本文はレーザー、カラー表紙はインクジェット」という棲み分けが、なぜそうなるのかを仕組みから整理したもの。
この記事は理論編。実際に刷り比べた実測は、末尾の「刷り比べメモ」に追記していく。
インクジェットとレーザーの仕組みの違い
ふたつは、紙にインク(トナー)を乗せる原理がそもそも違う。
- インクジェット:液体のインクを紙に吹き付ける。とくに染料インクは、紙の繊維に染み込んで定着する。
- レーザー:トナー(粉)を熱で溶かし、紙の表面に乗せて固める。紙の中までは入らない。
この「染み込む/表面に乗る」の差が、コピ本で効く二つの違いになって現れる。
コピ本で効く二つの差
字の滲み(フェザリング)
染料インクは紙の繊維に沿って広がるので、細い線や小さい級数の文字が毛羽立つ。これがフェザリング。本文の級数が小さい判型ほど痛い——たとえば文庫は文字が小さいぶん、滲みが可読性に直撃する。
レーザーはトナーが表面で固まるため、輪郭が繊維に逃げない。細線・小級数でも文字がシャープに出る。文字主体の本文では、ここがいちばん効く。
両面の裏抜け(裏写り)
水性インクは紙を「通って」裏面まで抜けることがある。両面印刷だと、これが裏写りになる。坪量の軽い紙ほど起きやすい。
トナーは紙を通らないので、構造的に裏抜けしない。両面前提のコピ本本文は、これだけでもレーザーに向く。
使い分け(棲み分け)
レーザーが万能というわけではなく、得意分野で分けるのが現実解。
| 刷るもの | 向いている方式 | 理由 |
|---|---|---|
| 文字主体の本文 | レーザー | 滲まない・裏抜けしない・束が締まる |
| カラー表紙・写真・イラスト・グラデ | インクジェット(染料) | 発色と階調の滑らかさ |
| 光沢紙・大判(A3など) | インクジェット | 用紙対応とサイズの幅 |
本文はレーザー、表紙はインクジェット、の二刀流。インクジェット機を手放すのではなく、役割を分ける構図になる。
A4機での面付け(判型別)
家庭用のカラーレーザーはA4までの機種が多い。A4機でA5・文庫を作る場合、判型で面付けの細かさが変わる。
- A5本:A4に2ページ(2up)。二つ折りで1枚あたり4ページ。面付けも折りもシンプルで、中綴じと素直に相性が良い。
- 文庫(A6):A4に4ページ(4up、2×2)。十字折りや折丁にすると1枚8ページ。面付けが4面に増えるぶん、両面印刷の表裏の見当ズレがシビアに効く。わずかなズレが、断裁後に各ページの余白の不揃いとして出る。
面付けが細かいほど、レーザーの両面見当(表裏の位置合わせ精度)が問われる。A5ではOKでも文庫4upではギリ、という線引きが起こりうる。
レーザー特有の注意:折り筋のトナー割れ
レーザーはトナーが紙表面に乗っているので、ベタの濃い面を山折りすると、折り目で白くヒビが入ることがある(トナー割れ)。中綴じや折り本の背・見開きで地味に効く弱点。インクが染み込むインクジェットには無い症状なので、レーザーに乗り換えると新しく気にする点になる。濃いベタを折り線にかけない面付けや、折る前の筋入れ(スジ押し)で軽減できる。
判型別の綴じとの相性
印刷方式と並んで、判型で綴じ方の寄り方も変わる。
- A5・薄め:中綴じが素直。ただし頁数が増えて厚みが出ると、内側の頁が小口にせり出すクリープが効くので、断裁前提だと安心。
- 文庫:針が小さい本に効きにくいので、無線綴じ(くるみ)寄り。背を糊で固めるぶん、ノド側の食い込みを面付けで少し逃がすと開きが良くなる。→ 家で作る無線綴じ
紙そのものの選び方は 手製本の紙、折り・断裁の道具は 手製本の折る・しごく道具 / 手製本の切る・削る道具 を参照。全体のジャンル地図は 手製本の地図。
プリンターメーカー早見
日本で名の通ったメーカーは、家庭〜SOHOで実際に触る御三家と、業務・商業・特殊で有名な面々に分かれる。
家庭〜SOHOの御三家
| メーカー | 強み | コピ本目線 |
|---|---|---|
| キヤノン | インクジェット高画質。顔料黒+染料カラーで「普通紙の文字くっきり&写真もそこそこ」のバランス型。レーザーは Satera。家庭用インクジェット複合機でエプソンと2強(各40%超) | 一台で平均点が高い。迷ったらここ |
| エプソン | Micro Piezo方式の雄。エコタンクでランニングが安い。写真プロ機 SureColor も強い | カラー表紙・写真・A3の発色担当 |
| ブラザー | レーザー/インク複合機を SOHO向けに堅実・安い・速い。4色インク機が充実。ミシンの会社でもある | 本文レーザーの定番。滲まず裏抜けせず、トナーも安い |
家庭用は「表紙はエプソン、本文はブラザー、迷ったらキヤノン」でほぼ成立する。
業務・商業・特殊
| メーカー | 強み |
|---|---|
| リコー | オフィス複合機・業務レーザーの大手。事務所の複合機の筆頭格 |
| 京セラ | ECOSYS。長寿命ドラムでランニングコストが低いレーザー。台数を回す現場向け |
| 富士フイルム(旧・富士ゼロックス) | Apeos/商業のプロダクションプリンタ。印刷会社が使う大型機 |
| コニカミノルタ | bizhub/AccurioPress。同人の印刷所が使う商業印刷機もこの系統 |
| OKI | LEDプリンタの白トナー・クリア・特殊色で有名。クラフト紙への白印刷など、同人グッズ界隈で「白といえばOKI」。※オフィス複合機事業は2025年にリコー・東芝テックの合弁 ETRIA へ統合して撤退したが、白トナー対応のカラーLED単機能機・ラベル機は継続中 |
コピ本制作の実用範囲は 御三家+(特殊表現したいなら OKI 白トナー) を押さえれば十分。リコー以下は「印刷所に出すと裏で動いている機械」に寄る。
刷り比べメモ(実測)
同じテストシート(A4両面・原寸)を、各機・各紙で刷って並べる。
EPSON(染料インクジェット)— 2026-06-18
用紙:コピー用紙=ペーパーワン Copier(緑)(APP系のコピー専用ライン。オールパーパス〔青〕より薄手の最廉価紙)/書籍用紙=淡クリームキンマリ(嵩高)。紙の両極端を並べた比較。
| 項目 | コピー用紙(ペーパーワン) | 淡クリームキンマリ(嵩高書籍用紙) |
|---|---|---|
| 小級数の字 | かすれる(5〜6ptは潰れ気味。普通品質モードの影響もありそう) | 全体に字が太めに出る(紙がインクを吸って線がふっくらする+クリーム地で締まって見える)。本文サイズは黒みがしっかり乗って読みやすい/極小級数は太るぶん潰れ注意 |
| 大きい字 | 滲む | 滲みは目立たず、太めに乗る |
| 裏抜け・透け | 大きい。濃度60%あたりから裏に抜け、裏面の文字が表に鏡像で透ける | 少ない。嵩高で不透明度が高く、裏も透けにくい |
| 両面見当 | 縦方向にずれる(位置精度が甘い) | 同上 |
| 階調・発色 | グラデ・カラーは綺麗 | 同様に綺麗(地色はクリーム寄り) |
わかったこと:本文側で「裏が透ける」問題は、実は二つの現象が混ざっている——(1)裏抜け(インクが紙を貫通して裏に染みる)と、(2)透け(紙が薄く不透明度が低く、裏の絵柄が透ける)。薄く密なコピー用紙は両方に弱く、スキャンすると裏面のテキストが表に鏡像で浮く。嵩高の淡クリームキンマリは坪量の割に厚く不透明度が高いので、両方に強い。つまり裏抜け・透けは印刷方式だけでなく紙の嵩・厚み(不透明度)に強く依存する。本文の対策は「レーザー化」と「書籍用紙化」の両輪で、紙を変えるだけでも大きく改善する(書籍用紙が本文に向く理由のひとつが実証された)。
ブラザー(カラーレーザー)— 2026-06-18
同じシート・同じ2紙をレーザーで刷った結果。インクジェットの弱点がほぼ一掃された。
| 項目 | コピー用紙(ペーパーワン) | 淡クリームキンマリ(嵩高書籍用紙) |
|---|---|---|
| 小級数の字 | シャープ。インクジェットのかすれが解消し、5〜6ptも締まって読める | シャープ。インクジェットの「ふっくら太り」が締まってキリッと出る |
| 大きい字 | くっきり | くっきり |
| 裏抜け・透け | ほぼ無し。薄いコピー用紙でも裏が透けない(トナーは紙を貫通しない) | 無し |
| 両面見当 | ほぼズレ無し(インクジェットの縦ズレが解消) | 微細なズレのみ |
| 階調・発色 | 良好(ベタも濃く定着) | 良好(地色はクリーム寄り) |
| 折り割れ | 出る。濃いベタの折り目に白いヒビ(今回の実測では谷折りで顕著) | 同様に折り割れが出る |
わかったこと:レーザーは裏抜け・透けをほぼ一掃し、字も締まってシャープ——本文印刷の弱点(滲み・かすれ・裏抜け)が方式レベルで解決した。インクジェットで太っていた書籍用紙の字も締まり、「ふっくら太め=インクジェット/キリッと細い=レーザー」が方式由来だと確認できた。代わりに、濃いベタの折り目でトナー割れが出るのがレーザー唯一の弱点(予想どおり)。
刷り比べの結論
- 本文・両面はレーザーが圧勝。滲み・かすれ・裏抜け・透けが消え、字がシャープ、両面の見当も安定(インクジェットの縦ズレが解消)。薄い紙でも裏抜けしないので、紙選びの自由度が上がる(高い書籍用紙でなくても本文が成立する)。
- カラー対談本の答え:レーザーなら「カラーが乗る × 裏抜けしない × 字シャープ」が一台で揃う。発色のためにコート紙を選ぶ必要が薄れ、白い上質紙や白めの紙で対談本が作れる。インクジェット時代の「カラー発色↔裏抜け」のジレンマが解ける。
- 唯一の注意は折り割れ。中綴じ・折り本では、濃い背景色のベタを折り目(背・見開き)にかけない面付けにする。折る前にスジ押し(筋を入れてから折る)、紙の目を折りと平行にすると軽減できる(手製本の紙 の紙の目、家で作る中綴じ の折りの項も参照)。
ソース
印刷方式の仕組み・コピ本での効き方・面付けは、会話ベースの整理(一般知識+手製本の実作経験)。メーカー早見は以下で裏取りした。刷り比べ後の実測はこの先に追記する。
- カラーLEDプリンター 製品情報 — OKI — 白トナー対応LED機の現行ラインナップ
- 特色ホワイト&クリアー プリントガイド — OKI — 白トナー印刷の公式ガイド
- OKIの複合機撤退の背景 — じむや — オフィス複合機事業のETRIA統合・撤退の経緯
- 複合機メーカーの最新公開シェア — OFFICE110 — 業務複合機シェア(キヤノン首位)
- 家庭用複合機おすすめ比較 — マイベスト — 御三家の家庭用機の強み比較