家で作る和綴じ

2026年4月、尚樹さんは 手製なんちゃって無線綴じ本 で「糊だけで一冊の本の形にする」を完走済み。次の一歩として自然なのは、道具を買い足さず・失敗しても糸をほどいてやり直せる和綴じ。手製本の地図から見てもここが一番勧めやすい枝。スティックグルーをヘアアイロンで溶かして背を固めた人なら、針と糸で綴じる作業は「また別種の手触り」として楽しめるはず。

姉妹ページとして 家で作る糸かがり綴じ もある。あちらは西洋式の骨格を家で組むルートで、無線綴じの道具(クランプ・ボンド・ミニアイロン)が再登板する。和綴じが「別種の手触り」への寄り道なのに対して、糸かがり綴じは「無線綴じの正統進化」。好みと気分で選んでよいし、順番に両方やっても面白い。

和綴じは四つ目綴じという基本形があって、慣れたら穴を増やして飾り綴じ(康熙・麻の葉・亀甲)に進める。一度の仕込みで基本と応用が両方見えるところが優しい——同じ紙束で練習して、糸の通し方を変えるだけで意匠が変わる。

揃えるもの

無線綴じの準備物と比べると、和綴じは道具が軽い。尚樹さんの既往記録にあるクランプ・板・ミニアイロン・カイちゃんは今回は全部いらない

紙まわり

  • 本文の紙 — 家のプリンタで刷ったA4・B5で十分。淡クリームキンマリが手元にあるならなおよし。二つ折りにして綴じる方式が伝統的だが、平たい一枚ずつを重ねる方式でもOK(こちらが簡単)
  • 表紙の紙 — 色付きの厚紙・ボール紙・和紙を貼った厚紙など。本文より一回り大きく切り出す。EPSONスーパーファイン紙を残してたら、それを厚紙に貼って使うのもあり

綴じるための道具

  • 綴じ糸 — 専用の絹糸が入手しづらいときは 刺繍糸・ボタン付け糸 が定番の代用。25番刺繍糸を3本どりくらいが扱いやすい。色は表紙との相性で好きに
  • — 家に「ふとん針」「刺繍針」があればOK。先端がそれほど鋭くなくてよい(穴はあらかじめ開けるから)
  • 目打ちに相当するもの錐・千枚通し・百均の目打ち で十分。なければ太めの縫い針をペンチで持っても代用可。木の板や段ボールを下敷きにすると安定する
  • 下敷き — カッターマット。なければ古雑誌・時刻表・厚めの段ボールで代用可(針が貫通したとき机を傷つけないレベルであれば何でも)
  • クリップ — ダブルクリップ2〜3個。紙束がずれないように固定する
  • 定規と鉛筆 — 穴の位置を下書き

あってもいいもの

  • 穴あけのテンプレート用紙 — 厚紙を細長く切って、穴位置を決めて一度だけ開けておくと、以降は当てるだけで同じ位置に穴が開けられる。これは地味に効く
  • ハンマーや木槌 — 分厚い紙束で目打ちが入りにくいときに柄の頭を軽く叩く。家に金槌しかなければ布を当てて加減する
  • 糸切りばさみ — 普通のはさみで代わる

尚樹さんの無線綴じで出てきた「カイちゃん(段ボールカッター)」「ミニアイロン」「クランプ」はこの工程では出番なし。和綴じは道具の濃度が一段下がるというのが、実際に始めるときの体感的なハードルの低さに繋がっている。

四つ目綴じの手順

伝統的な穴の数は4つ。本文と表紙をまとめて貫き、糸で縫って綴じる。

1. 紙を揃えて束ねる

本文の紙を綺麗に揃える。揃え方は、机にトンと天(上)と地(下)を当てて整えるだけで十分。表紙と裏表紙でサンドイッチして、ダブルクリップで3辺(上・下・綴じたい側の反対側)を仮止めする。綴じたい側は空けておく。

尚樹さんの無線綴じと違って、背を揃える必要はない——和綴じは背を平らに押し付けるのではなく、綴じ穴の列で固定するから、4辺が揃っていればそれでいい。

2. 穴の位置を決める

綴じたい辺(通常は左側)から、紙の内側に入った位置に4つの穴を開ける。目安としては:

  • 綴じ代 — 辺から5〜10mm程度内側
  • 穴の間隔 — 天から地までを5等分して、4つの穴を等間隔に
  • 天地の穴 — 一番上の穴と一番下の穴は、端から少し内側(10〜15mmくらい)

細長く切った厚紙に鉛筆で穴位置を下書きして、目打ちで一度だけ開けたテンプレートを作ってしまうと、以降は当てるだけで済む。2冊目以降の効率が全然違う。

3. 穴を開ける

紙束をクリップで固定したまま、下敷きを敷いて、テンプレートを当てて、目打ちで一気に貫通させる。厚い束だと途中で止まるのがよくあるつまずき。そのときは:

  • 紙束を半分ずつに分けて開けて後で合わせる
  • 目打ちを回しながら押し込む
  • 柄の頭を布越しに軽く叩く

穴が斜めになると糸が通らなくなるので、垂直を意識して一気にが基本。下敷きの上に少し余裕のあるクッション(たたんだタオルなど)を入れると、針先が逃げてくれて紙のめくれが減る。

4. 糸を用意する

糸の長さは天地の長さ × おおよそ3倍が目安。短すぎると途中で足りなくなり、長すぎると絡まる。少し長めに切って、針に通して玉結びはせず端を揃える(後で結ぶ)。刺繍糸を使うなら3〜4本どりが扱いやすい。

5. 綴じる

四つ目綴じの基本パターンは 「通す・巻く・通す」の繰り返し。糸を背面から2番目の穴に通すところから始めて、穴ごとに「そのまま次の穴へ」「背と天(地)を巻いてから次の穴へ」を規則に沿って進める。

文字で手順を追うと混乱しやすいので、動画一本で見るのが圧倒的に早い。YouTubeで「和綴じ 四つ目綴じ 作り方」で検索すると、5〜10分で流れが掴める動画が多数ある。下のソース欄の信頼できる解説サイトも、図解が親切で独学に向く。

6. 結んで愛でる

最後は2本の糸端を本文の中(綴じ穴に沿った内側)で軽く結び、余った糸を穴の中に押し込んで隠す。これで表に結び目が出ない。和紙表紙ならさらに角に小さな飾り綴じを加えてもいい。

尚樹さんの無線綴じ記録の最後にあった「愛でる」工程は、和綴じでも同じかそれ以上に重要。糸の色と紙の色が噛み合った一冊は、商業品にない手触りの良さがある。

つまずきポイントとコツ

実際に作った人の記録から、失敗しやすい場所をまとめた。

穴位置がずれる — 最大の失敗原因。テンプレートを一度だけ作って以後は流用する、が王道。目分量で毎回打つのは2冊目以降しんどい。

糸が足りなくなる — 「天地の3倍」を念のため4倍にしておくと安心。余ったら切ればいいだけなので、短すぎるより長すぎるほうが事故が少ない。

糸がよじれる・ほつれる — 引くときは一定方向、急に引かない。刺繍糸を3本どりで使うときは端を軽く指で撚っておくと扱いやすい。

目打ちで下の紙が届かない — 束が厚いとき。半分ずつに分けるか、柄を叩くか、錐なら回転させる。一度に全部開けようとしないのがコツ。

締めすぎて紙が凹む/緩すぎてぐらぐらする — 糸の張りは「ピンと張るがたわませない」くらい。全部の穴を通し終わってから、最後に糸全体の張りを整える余地がある。

紙がめくれる・毛羽立つ — 特に和紙や再生紙で起きやすい。目打ちを入れる前に紙束の上に薄い板(塩ビ板・クリアファイルの切れ端)を乗せて押さえる。

飾り綴じへの拡張パス

四つ目綴じの紙束と穴位置をベースに、穴を足すだけで意匠が豪華になるのが和綴じの面白さ。同じ本を分解してやり直せるから、練習台として使い回せる。

康熙綴じ(こうきとじ)

四つ目の天地両端に、角を囲むように2つずつ穴を追加。糸が角に十字模様を描く。中国清朝の康熙帝が好んだ綴じ方で「高貴綴じ」とも呼ばれる。見た目は四つ目より格上だが、追加穴が4つ増えるだけなので難易度の跳ね上がりは小さい。四つ目の次にやる飾り綴じとして最もポピュラー。

麻の葉綴じ

康熙綴じの角部分をさらに増やして、糸が麻の葉模様の六角形を描くバリエーション。穴の数は10〜12個ほど。麻の葉文様は「生命力・魔除け・子の健やかな成長」の意味を持つ吉祥紋で、贈り物用の本にも向く。

亀甲綴じ

四つ目の背面側に追加の穴を足して亀の甲羅のような六角形を描く。亀は長寿の象徴。麻の葉より穴配置がシンプルで、四つ目ができれば派生として手を出しやすい。

この3つは四つ目が体に入ったあとの寄り道として順番に試すのが無理なく、いきなり麻の葉から入ると穴位置が複雑で混乱しやすい。四つ目 → 康熙 → 亀甲 or 麻の葉の順がおすすめ。

和綴じのお供

実作業に入るときに信頼できる情報源を、性格別に。

手順を追うなら(動画・解説サイト)

  • 神奈川県立歴史博物館「和綴じを体験してみよう」 — 博物館が監修した解説。公共機関の情報源として信頼度が高い
  • 国立国会図書館「四つ目綴じの綴じ方」実習テキスト(PDF) — 古典籍講習会の実習資料。原典に近い手順
  • つくも暮らし「和綴じ<亀甲綴じ>を作って和紙を楽しむ」 — 個人ブログの丁寧な作例。亀甲綴じの雰囲気が掴める
  • 帆風はつか「和綴じでお手製noteつくりませんか?」(note) — note記事、気取らない実作記録

本で読むなら

  • 『美篶堂とつくるはじめての手製本』(河出書房新社) — 製本屋が教える本の作り方の定番。和綴じは一章扱いだが、西洋式も含めた全体像への入口になる
  • 『いちばんわかる手製本レッスン』(誠文堂新光社、製本工房リーブル代表監修) — 技法網羅型の入門書。和綴じの飾り綴じも図解が詳しい

紙と糸を買うなら

  • 懐紙 のページで触れた京都の鳩居堂辻徳など和紙専門店は、和綴じに向く薄めの和紙や表紙用の厚紙、色付き糸を扱う
  • 手芸用品店の刺繍糸コーナーで十分代用できる。25番刺繍糸は色数が豊富で、和紙との相性を選ぶ楽しみがある
  • 本格的に揃えるならまるみず組(製本材料販売)や美篶堂の製本キットが便利——専用の絹糸・製本針・和紙表紙がセットになっている

ソース

最終リンク確認: 2026-04-21(大手除外)