家で作るコプト綴じ

家で作る糸かがり綴じ の3本道で言う道Aの深掘り実践編。姉妹ページ 家で作るロングステッチ とあわせて、「糸で綴じて背が見える製本」のシリーズ。

尚樹さんがコプト綴じに反応したのは、180度開く気持ちよさ背に糸模様が走る可愛さ。どちらもコプト綴じが「背表紙を持たないこと」から生まれる特徴で、この2つは切り離せない——背を糊で固めないから180度開けるし、糊で隠さないから糸模様が主役になる。表紙・本文・糸の三者の色合わせで世界観が決まる、手製本のなかで一番ビジュアル先行で設計できるジャンル。

コプト綴じって何

起源:古代エジプトのコプト教徒

2〜4世紀ごろ、ローマ帝国下のエジプトでコプト教徒(コプト正教会)が写本を作るのに使った製本技法。現存する最古の冊子体(コデックス) は、このコプト綴じで作られたと言われている。巻物(scroll)から「ページをめくる本」への移行期に生まれた製本方法で、本という形そのものの原型みたいな位置にある。

技法の核:チェーンステッチ

折丁の背に等間隔で穴を開け、糸を折丁と折丁の間で絡ませながら綴じ上げていく。このとき一つ下の折丁の糸に針を絡めて引き上げる動作が、くさり状(チェーン状)の編み目を作る。背を真横から見ると、細い鎖が天地方向に並ぶ——これがチェーンステッチで、コプト綴じの視覚的シグネチャ。

背表紙を持たない

西洋式の糸かがり綴じが「折丁を糸で縫い → 背を糊で固め → 背紙を貼る」のに対し、コプト綴じは全部の工程が糸だけで完結する。背固めなし、背紙なし、くるみ表紙なし。糸が表紙まで繋ぎ留めているので、糊を一滴も使わずに一冊が成立する。

結果として、

  • ページを180度開いても中綴じのように自然に開く
  • 背に糸のチェーンが見える(隠さない、隠せない)
  • 表紙は本文と一緒に糸で綴じる(最初と最後の折丁が表紙と直接結ばれる)

という3つの性質がセットで生まれる。開くと可愛いのはチェーンが動くから。平たく置けるのは糊で押さえられていないから。

背が見える美学

コプト綴じは「背を見せる製本」の代表格。ここを楽しまないと手間の半分を捨てることになる。

糸色で変わる

同じ紙・同じ表紙でも、綴じ糸を変えるだけで本の印象が一変する。白い紙に黒・紺・深い赤なら古典装、カラフルな刺繍糸ならモダン装。リネン色(生成り)の糸は一番馴染む無難な選択。

太さで変わる

細い糸(25番刺繍糸2〜3本どり・手縫い用ミシン糸の太め)だと繊細な印象、太い麻糸・ワックスコードだと力強い印象。太い糸のほうが初心者には扱いやすく、編み目もはっきり見える。

紙色と表紙色の組み合わせ

背のチェーンが目立つぶん、表紙の色面も余白として効く。クラフト紙(茶色)の表紙に生成りの糸、黒い厚紙に金色の糸、白い厚紙に深い紅色の糸、みたいに2〜3色の組み合わせで完結する設計が気持ちいい。尚樹さんが手製なんちゃって無線綴じ本でEPSONスーパーファイン紙を表紙に使ったセンスが、ここでも効くはず。

天地(上下)の見切れ方

コプト綴じは天地の穴が一番端に来る。表紙より本文を少し小さめに切ると、天地にチェーンが覗く額縁構造になって品がよい。全部同じサイズに切ると目立ちすぎることも。

糸かがり綴じと何が違う?

親ページ 家で作る糸かがり綴じ で扱った道C(フレンチリンク+くるみ表紙) と比べると、工程の形がかなり違う。

フレンチリンク+くるみコプト綴じ
背固めあり(クランプ・ボンド)なし
表紙付けの順番本文完成後最初から一緒に綴じる
糊の使用背固め・表紙貼りで使う一切使わない
仕上がりの開き150度くらい180度フル
糸の見え方背に隠れる背にチェーンが並ぶ
無線綴じ道具の活躍度高(クランプ・ボンド・アイロン再登板)(糸と針と目打ちだけ)

ここがポイント——コプト綴じは無線綴じの道具がほぼ出番なし。その代わり和綴じに近い軽装備で、クランプも板もボンドも要らない。「なんちゃって無線綴じの正統進化」を感じたいなら道C、「糸で綴じる最短コース」を走りたいならコプト、という選び方になる。

揃えるもの

和綴じの道具にほぼ近い軽装備。

紙・表紙まわり

  • 本文の紙 — A4・A5を家のプリンタで刷って二つ折り。面付けは糸かがりと同じ(折丁単位)
  • 表紙の厚紙1.5〜2mm厚のチップボールが扱いやすい。薄すぎるとヘタる、厚すぎると穴あけに力が要る。段ボールの平らな部分でも代用可だが、表も裏も見える位置に出るので見た目の面で厚紙のほうが推奨
  • 表紙の仕上げ — 厚紙のままでもいいし、和紙・色紙・布を貼って仕上げてもいい。懐紙を貼り合わせて表紙にするのも一手

縫うための道具

  • 綴じ糸麻糸・リネン糸・ワックスコードが定番。刺繍糸・ビーズ用ナイロン糸・手縫い用ミシン糸の太めでも可。糸色はここが一番楽しいところなので手芸店で吟味する価値あり。本の高さ × 折丁数 × 2 くらいの長さ
  • — 製本針・ふとん針・刺繍針。カーブ針があると折丁間の絡めがラクになる(コプト綴じは下の折丁の糸に絡めに行く動作が頻発するので、カーブ針の恩恵が特に大きい)
  • 目打ち — 百均で可。錐・千枚通しも
  • ヘラ — 折り目をしごく。代用品は糸かがりページと同じ(定規の角・スプーンの柄)
  • ダブルクリップ — 穴あけ時の仮止め
  • 定規・鉛筆 — 穴位置の下書き

あってもいいもの

  • ビーズワックス or 蜜蝋 — 糸に通すと滑りがよく絡みにくくなる。特にチェーンステッチは糸が糸に擦れる動作が多いので効く。百均のキャンドル用ワックスで代用可
  • ワックス入り麻糸 — 最初からワックス処理済みの糸。手芸店のレザークラフトコーナーにある

手順

コプト綴じの流れは4段階。表紙が先に必要なのが最大の特徴。

1. 折丁を作る

糸かがり綴じと同じ。A4を二つ折りにして3〜5枚重ね、これを1折丁として、全体で5〜10折丁ほど作る。折り目はヘラでしごく。

2. 表紙を作る(本文より先に)

厚紙を2枚切り出す(前表紙と後ろ表紙)。糸かがりの「くるみ表紙」と違って背板は要らない——コプト綴じは背が開いているから、表紙2枚がそのまま糸で繋がる構造。

サイズは本文より天地+小口で2mmずつ大きく(見切れ防止)。背側は本文と同じ長さで揃える。表紙の仕上げ(和紙貼り・布貼り)をするならこの段階で。

3. 穴を開ける

コプト綴じの穴数は偶数個(4〜8個が一般的、A5サイズなら4〜6個)。

  • 折丁:背に等間隔で穴(和綴じと違って折り目の谷に穴を開ける)
  • 表紙:折丁と同じ位置に穴を開ける(背の縁から5〜10mm内側)

テンプレートを一枚作って全折丁+両表紙を同じ位置で穴あけ。ここがズレると綴じ上がりが斜めになる。

4. チェーンステッチで綴じる

核心工程。文字だけだと必ず混乱するので、まず動画を一本見てほしい。下のソース欄の MOTOYA Book・Cafe・Gallery のワークショップ記事や、海外の”Coptic stitch bookbinding tutorial”動画(Sea Lemon・Sea Dragon Studio などの英語チャンネルが定番)が分かりやすい。

動画で全体像を掴んだ上で、文字で追うとこうなる。

  1. 一番下になる表紙(後ろ表紙) を糸で綴じ始める。端の穴に糸を通す
  2. 一番下の折丁の同じ位置の穴から糸を外へ出す
  3. 次の穴へ折丁の内側から外へ。これで折丁1つを表紙に繋げた
  4. 次の折丁を乗せ、その折丁の穴へ糸を通し、一つ下の折丁(=今綴じた最下折丁)の糸に針を絡めて引き上げる——これがチェーンステッチ
  5. 折丁内の次の穴から外へ、また次の折丁へ……を繰り返す
  6. 一番上の折丁を綴じ終わったら、前表紙を同じ要領で綴じ付けて終了
  7. 糸の始まりと終わりは、本の内側で結んで隠す

「下の折丁の糸に絡める」動作が繰り返されることで背にチェーンが並ぶ——これがコプト綴じ。慣れると一定のリズムになる。

5. 愛でる

表紙を閉じて、180度開いてみる。背のチェーンが伸びたり縮んだりせずに、本がパタンと開くのが確認できたら成功。平らに置いて、スケッチやメモが書きやすいかを試す。

つまずきポイントとコツ

チェーンが歪む — 絡め方を一定にする(常に上から下、など)。途中で向きを変えると背面のチェーンが乱れる。動画で「どっち向きにくぐらせるか」を確認して、それを最後まで守る

糸の張りが均等にならない — 折丁ごとに同じ張りで引く。引きすぎると紙が波打つ、緩いと本が歪む。ピンと張るけど紙は平らなまま、のラインを意識

下の折丁の糸に絡められない/見えない — 背を覗き込みながら作業する。照明をしっかり当てる。カーブ針があれば角度が取りやすい

糸が足りなくなる — 長めに取るのが鉄則。本の高さ × 折丁数 × 2 + 余裕 50cm。継ぐ場合は折丁の内側で結ぶ

表紙と本文の位置がずれる — 穴位置のテンプレートを表紙にも使うのが決定打。表紙だけ手書きで穴位置を決めると、本文と合わなくなる

綴じ終わりに本がぐらつく — 最後の糸の処理が甘いと全体が緩む。最後の結びは2重3重に結ぶ、あるいは糸に蜜蝋を染み込ませて摩擦を稼ぐ

チェーンステッチの「一段目」がぽつんと浮く — コプト綴じの構造上、最下層(最初の折丁→表紙)はチェーンの連鎖が始まっていないので糸がシンプルに見える。これは仕様。嫌なら「ダブルコプティック」という派生で最下層にもチェーン風の処理を足せる

次の寄り道

糸色で遊ぶ

一番手軽な発展。同じ形の本で糸色だけ変えて何冊か作ると、本のシリーズになる。月ごとに色を変える、季節ごとに変える、中身の内容に合わせる、など。

コデックス装(日本の商業製本でのコプト応用)

日本の製本業界では「コデックス装」の名で、コプト綴じの意匠を商業本に応用した装幀が一部で使われている。渡邉製本(埼玉)などの工房が手掛けていて、写真集・画集・アートブックでの採用が多い。参考として下のソース欄に。

ダブルコプティック/ロングステッチコプティック

基本のコプト綴じが体に入ると、派生技法が楽しくなる。ダブルコプティックは2本糸で二重のチェーンを作る。ロングステッチコプティックは姉妹ページ 家で作るロングステッチ のロングステッチ要素をコプトに混ぜたハイブリッド。英語圏の製本コミュニティで盛んに遊ばれている。

豆本コプト

A7・A8くらいの小さな本をコプト綴じで作ると、背のチェーンが手のひらで光るような仕上がりになって、ガチャポンや小物入れに近い愛玩性が出る。贈り物として配りやすいサイズ。

コプト綴じのお供

日本語の解説・作例

  • OB-log「長い旅路コプティック製本」 — 大田ブックアートのスタッフによる詳しい解説記事、工程写真付き
  • Diario di Carta-Studio — 個人工房のコプト製本作例、写真が綺麗で雰囲気が掴める
  • おもちゃシューリーズ「コプト綴じのスケッチブック」 — スケッチブックへの応用、気取らない実作記録
  • 渡邉製本「コデックス装」(note) — コプト綴じの商業応用、美しい綴じ目の参考

英語圏の動画(超定番)

  • Sea Lemon(YouTube) — “Coptic Stitch Bookbinding Tutorial” が初心者向けの決定版。英語だが手元の動きだけ見れば十分わかる
  • iBookBinding — コプト綴じに限らず製本全般の技法ライブラリ

ワークショップ

  • MOTOYA Book・Cafe・Gallery(大阪) — 「コプト綴じの本」ワークショップを定期開催
  • 本格的に学ぶなら 手製本の地図 の工房一覧へ

糸と厚紙を買うなら

  • 手芸店(ユザワヤ・オカダヤ) — 麻糸・リネン糸・ワックスコード、刺繍糸の色出しが豊富
  • 画材店(世界堂・Too) — チップボール、厚紙
  • まるみず組 — 製本用の本格的な糸・針

ソース

最終リンク確認: 2026-04-21(大手除外)